食品工業の失敗学

第3話 製造規格と製品規格(二つの規格の狭間)で

スライスパックに収まらない原料肉

欧州からハム、ベーコン用の原料豚肉を輸入していたハムソーセージメーカーでの話。

日本市場で売るハムベーコンは殆どスライスパックです。1パック当たりの枚数と重量をそろえることは、見た目を均一にすることが品質の意味でもある日本では大事なことです。前回買ったハムは8枚入っていたのに今回は7枚しか入っていないとなると、例えグラム表記の内容量が同じでもクレームが起きるのが日本です。

そこで、これを防止する為には原料から形をそろえなければなりません。その為には原料には厳しい規格がありました。
使用豚の品種、餌、整形肉の長さ、幅、脂の厚み、取り除くスジ、箱への詰め方、冷凍温度、残存細菌水準などなど。

この中で、ユーザーであるハムメーカーの製造現場がもっとも気にするのはサイズです。大きすぎれば加工機械にかからず、整形しなおしでロスと人件費が馬鹿にならないからです。
私も、現場からの苦情を山と携えて飛行機に乗ったのです。(当時はアンカレジ経由でねぇ)

現場で見た整形のカラクリ

その工場では、ロース肉はまな板に印をつけて長すぎるものを切り落とし、ばら肉はプラスチック製の型を当てて、それより外側に出た部分を切り落とすという方法で整形していました。

ばら肉整形作業

ばら肉の型当て整形作業

骨を抜いたあとのミドル部分(腹の部分)はヨレヨレで柔らかですから、まな板の上に載せる方法次第で伸びたり縮んだりします。それを無視して、型を乗せて切ります。
どうしたって型どおりにはなりません。大抵の場合型より大きい。そして製品規格より大きいバラ肉が出来てしまうのです。

百聞は一見にしかず。現場を数日見ていれば原因は判りました。つまり、型が大きすぎるのです。
型に正確に沿ってナイフを走らせるのは簡単ではありませんし、肉も滑ります。

ナイフの傾き断面図

型とナイフの進入角(真横からの断面図)

上図は真横から肉を整形しているところを見たところですが、図の通り、ナイフの刃先が外側へ逃げていつも型より大きな肉が切り出されていたわけです。

サイズの分散と「二つの規格」

結果として以下のようなサイズの分散が起きていました。

サイズ分布グラフ

切り出しサイズの分布(規格外れにピークがある)

なぜ、グラフのような規格サイズを外れたピークを持つ製品群が生産されたのかと言えば?
答えは意外と単純でした。
製品規格と型の寸法が全く同サイズだったからです。言い換えれば製造規格が型です。

製品規格を達成する為の条件が製造規格ですから、おのずからその二つは異なったもので無ければなりません。
製造規格は英語で Production specification とか Process specification とか言いますが、製品規格は Customer Specification とか Final Products Specification と言います。西洋文化の工場では厳然と分かれていますが、日本の工場では区別しないところもかなり有ります。これは品質文化論の違いで何とも仕方ない事も有ります。

よくよく調べてみると、工場の製品規格書には、「○○cm × ○△cm の型を使って切る」と書いてあり、日本側の受け入れ工場の規格書には「○○cm × ○△cm」としか書いてありませんでした。

こういう、スペックの詳細の翻訳に手を抜いただけで、この様な苦情も起きるのですね。(この場合は3カ国語の基準書と手順書をひっくり返して調べましたが、QAという仕事は外国語が嫌いな人には向かないのは確かですよ。)

文化の違いとスペック作成の教訓

この規格を決めたのが、科学の「か」の字も知らない商社の人だったので、仕方が無い面も有ります。しかし、この文化の差による罠は、メーカーの人間でも外国の仕事に慣れていないとしばしば引っかかります。

結局、型の寸法を変えて製造規格を書き直し、原価計算をやり直させて日本に帰ってきました。

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