第48話 電気用品安全法上の書類が足りないよ

特定電気用品で起きがちな馬鹿話

電気用品安全法を仕事の種にし始めたのは2009年。 「コーヒ沸し器」今で云う「電気コーヒー沸器」を扱う会社に入社してからです。 電気用品安全法 いわゆるPSEです。  何しろ当時は食品輸入業で社内に電気製品を扱ったことがある人が居ない。 教えてもらう相手も居ない。 仕方がないので霞が関の経産省に行って「すんません 教えてください」とやったもんです。
当時は「特定電気製品でない電気用品」(わけがわからんでしょhi)のコーヒーマシンしか扱っていなかったのですが、それから通販会社に転職したら、バッテリ充電器、直流電源装置、電源コードなどなど「特定電気用品が扱い品目に出てきて「わけがわからん!」
仕方ないので、東洋テックやJTS、経産省に教えてもらいながら勉強したもんです。 アマチュア無線の基礎が役立ったので技術基準の方ではあまり苦労しませんでしたが、法令の施行基準では目が回りました。 下の赤で囲んだのが特定電気用品のPSEマーク
特定電気用品のPSEマーク何が困ると言って、日本国内での家電製品の製造がほぼ絶滅したために、製造は外国ばかり。 欧州の会社は「日本はわけがわからんから、教えろ!」なのですが、中国や日本の中小ポっと出の中小メーカーは「知ってる!やってる!」で、実はまるでできてないアジアの混沌です。 

特に、海外の家電メーカーと付き合っていて頭が痛いのは電気用品安全法(以下電安法)の8条1項と9条をごっちゃに理解しているところです。 コーヒーマシンなどは「特定電気用品でない」ので◯PSEですから電安法9条は実務上ほぼ関係ありません。 バッテリチャージャ(USBチャージャとか、充電式機器に付いてくるアレ)、とかテーブルタップは上で赤で囲んだPSEマーク(英語だとDiamond PSEとか<PS>Eとか表現します)の「特定電気用品」なので9条で言う「適合同等証明書」が必要になります。 
この証明書を英語だとCirtificate of Comformity (CoC)と呼びますが、これが何物かと云うと、「その工場でこういう種類の電気用品作ってもOK」という証明書なのですが、8条で言う電気用品の安全の証明は具体的なモデル(例えばバッテリチャージャABC-123型)のJIS規格で試験した試験報告書Reportと、その報告書をもとにした安全の証明書Ciritificateを言います。

そこで電安法の8条1項と9条について、百曼荼羅な誤解が生まれるですよ。 最近出てきた充電式電気用品の海外ブランドはたいていやらかしていますな。
ここでは、海外の特定電気用品製造会社が犯している最も多い勘違いを挙げて説明します。 

結論を先に言うと、法第8条第1項と法第9条は「どちらか一方を満たせばよい」という関係ではありません。
第8条第1項が届出事業者(輸入者)による製品そのものの技術基準適合義務(CBレポート)、第9条は特定電気用品について追加される第三者による適合性検査・証明書(CoC)保存の仕組みです。
経産省自身も、第8条の自己確認に「加え」、特定電気用品には第9条の適合性検査が必要、と明確に整理しています。

1. 最も多い誤解:「適合同等証明書CoCがあるからCB Reportはいらない」

海外メーカーから非常によく出てくる説明が、

“We already have a PSE certificate. Why do you need the CB report?”

というものです。 ここで彼らのいう「PSE certificate」は、多くの場合、外国製造事業者に登録検査機関が発行した適合同等証明書CoCです。

しかし、適合同等証明書の役割は限定されています。外国製造事業者が適合性検査相当の検査を受けて適合同等証明書を取得し、日本の届出輸入事業者がJETやTUVラインラント香港などの登録検査機関発行の紙の印刷した「副本」現物(pdfじゃだめ)を入手・保存すれば、輸入事業者自身が第9条の適合性検査を改めて受けることを省略できる、という制度です。

つまり、

適合同等証明書 CoC→ 第9条への対応 であって、

適合同等証明書 → 第8条第1項の技術基準適合確認が不要 ではありません。

経産省の手引書は、第8条第1項について「設計段階における当該電気用品の技術基準適合義務」、第9条について特定電気用品に対する追加のダブルチェック、と整理しています。 したがって、輸入者側で考えると概念的には、

8条1項:この製品が日本の技術基準に適合していることをCBレポートで確認する

+

9条:特定電気用品について登録検査機関の適合性検査に係る証明書CoCを確保する
という二階建てです。


CBレポートと適合同等証明書の説明用サンプル画像これはAIでつくったでっち上げなので こんな感じよ と言う例



2. 「8条1項=CB Reportが法律上必須」ではない(とはいえ)

ここは逆方向の誤解にも注意が必要です。 電安法第8条第1項は、 

 「CB Test Reportを保存せよ」 とは規定していません。

要求しているのは、届出製造・輸入事業者が、対象製品を技術基準省令に適合させることです。
経産省のハンドブックも第8条第1項について「全ての製品モデルに対して、自ら技術基準適合の確認を行う義務」があると説明しています。 とはいえ、特にに電気機械系の部門もない、電気機械系の学部をでた社員も居ないような中小零細の輸入業者さん(外資系輸入会社なんかも、これ)はですね 、自分の口で自社が輸入した電気用品の安全性について説明できるわけがないのです。

CB Reportは8条1項への適合を実証するための非常に有力な技術エビデンスで、 そこでCBレポートが効いてきます。 経産省の担当官に「説明して」と言われたら「これです!」と言ってCBレポートを出すしかできないでしょ。 ボルトとアンペアの区別も付かないんだから(本当にそういう連中が輸入販売しているのよ)。

IEC規格ベースの電安法別表第十二を使う製品なら、実務上、

CB Test Certificate
+ CB Test Report
+ Japan National Differences / Deviationsの評価 
(たとえばIEC60335-1だけで試験してJIS9335-1かJ60335-1で試験していないとNG)
+ 必要な追加試験
+ 日本仕様のCritical Components、定格、プラグ・コード等の確認

というパッケージで8条1項の適合性を確認するのが合理的です。 ですから海外メーカーに対しては、

「9条証明書があるからCB Reportが法律上不要」

という説明は大勘違いのもとで、同時に、

「8条1項はCB Reportの提出を法律上要求している」

と言い切るのも正確ではありませんが、そういった方が話は通りやすいです。 実務上の強制(Mandatory)なのですから。

ムリムリ正確に言うと、

9条の適合同等証明書は8条1項の技術基準適合義務を免除しない。したがって、日本の届出輸入事業者は8条1項への適合を確認できる十分な技術資料を保持する必要があり、別表第十二を使う製品ではCB Reportがその主要な技術資料になることがほとんど。 無いと、おまえのところの製品輸入しない。

です。


3. なぜ海外メーカーがこの勘違いをするのか

原因はIEC/CB Schemeや欧州CEとの制度思想の違いです。 海外メーカーのCompliance担当者はしばしば、

Product testing → Certification body → Certificate → Market access という発想をします。 そのため、

「TÜV/UL/Intertek/JET等がPSE Certificateを発行した」

↓

「Japan approval completed」

↓

「したがってCB Reportやtechnical fileを日本の輸入者に渡す必要はない」

という理解になりやすい。

ところが電安法では、届出事業者(輸入者)自身に第8条の義務があり、第9条はそれを置き換える制度ではありません。 実際、経産省の登録検査機関ガイドも、第9条2号検査について、登録検査機関がサンプルについて第8条第1項の技術基準への適合性と工場の検査設備等を評価する仕組みと説明しています。 つまり9条は8条とは独立した「certificateだけの制度」ではなく、むしろ8条による事業者の適合義務を前提として、その能力・製品・設備を第三者が確認する追加レイヤーと理解した方が実態に近いです。

さらに欧州CEマーク制度が実務上、「製品事故が起きた時CBレポートが官庁に提示できればよい」なのに対して、電安法は「発売時には輸入者はCBレポートを確保評価していろ」 という建付けなのもの勘違いの原因です。


4. 海外メーカーで多いその他の誤解

実務上は次のようなものが典型的です。

海外側の理解 電安法上の問題
適合同等証明書があるので8条対応不要 誤り。9条と8条は別義務
PSE CertificateがあればCB Report不要 8条適合を確認できるtechnical evidenceが別途必要
CB Certificateだけ渡せばよい Certificateだけでは試験内容・部品・条件を十分確認できない
IEC CB Reportならそのまま日本で使える Japan National Differences等の確認が必要
IEC規格に合格しているのでPSE適合 日本固有要求が残る場合がある
9条証明書(CoC)の「型式の区分」が一致すればよい 電安法ではの型番確認が重要で、9条証明書に型番が入らないほうが一般的
工場が同じなら別モデルにも9条証明書(CoC)を流用できる 証明書(CoC)に記載された適用範囲・型式区分と同じ製品にのみ流用できる。
CB Reportの部品と量産品が多少違ってもよい Critical Component変更は8条適合性の再評価が必要になり得る
PSEは第三者認証制度 正確には届出事業者(輸入者)自身が重要な法的責任を負う制度でメーカーは、その根拠を出すビジネス上の責任がある。
Certificateをメーカーが持っていれば輸入者はOK 9条特例では日本の輸入者が登録検査機関発行の副本を郵送で入手・保存する必要がある

最後の点もかなり重要です。単なるPDFコピーではなく、経産局は「必要の都度、外国製造事業者が受検した登録検査機関に副本交付申請を行い、登録検査機関が発行した副本」と明示しています。
私は「別にpdfでも良いけどね」という製安課長の言質を取ったことはありますが、公式には上の「紙」です。


5. どの国でこの誤解が多いか

ここは少し慎重に区別する必要があります。 経産省や登録検査機関は「国別の誤解件数」の統計を公表していません。 したがって「中国が何%、韓国が何%」という客観的ランキングは作れません。 その前提で、PSE実務で体験したのは、中国本土の製造会社・ODM/OEMおよび現地試験所では、この混同が特に発生しやすいと考えられます。中国ではCCCなど「certificate=market access」という認証制度に慣れていることに加え、日本向けPSE案件の量そのものが非常に多いためです。

次いで、台湾・香港・韓国などのIEC/CB Schemeに非常に慣れたメーカーでも、「CB+PSE certificateを取った=Japan certification completed」という理解になるケースがあります。

一方、TÜV、UL、Intertek、SGS、JQA/JETなどのPSE専門部署・日本法人では通常この区別は理解されています。問題になりやすいのは、同じ大手試験機関でも「一般IEC/CB担当者」と「日本PSE担当者」の間です。 なお、経産省が現在掲載している外国登録検査機関には、中国のCQC、TÜV Rheinland Hong Kong、UL International Hong Kong、台湾のTÜV Rheinland TaiwanとETC、シンガポールのTÜV SÜD PSB、米国ULなどがあります。 つまり、中国・台湾等でPSE適合性検査そのものが広く実施されていることは公的資料でも確認できます。

ただし、外国登録検査機関がその誤解をしている、という意味ではありません。 工場のCompliance担当、営業担当、ODM、一般CBラボなどとのコミュニケーションで起こる問題、と分けた方がよいでしょう。  経産省の登録検査期間も忙しいので、試験自体は非登録検査機関の試験レポートを流用して認証します。 そこで伝言ゲームが始まるのです。


6. 海外工場にはこう説明すれば いいかもよ

非常に単純化すると、次の図が一番伝わります。

Article 8(1)
→ PRODUCT COMPLIANCE
→ Is the actual product compliant with Japanese Technical Requirements?
→ Technical evidence: CB TR + Japan deviations/additional evaluation etc. IEC only is not accetable.

Article 9
→ CONFORMITY ASSESSMENT / CERTIFICATION
→ Has the specified electrical appliance undergone the required conformity assessment by a Registered Conformity Assessment Body?
→ Evidence: PSE Certificate of Comformity/ Equivalent Certificate (適合同等証明書)

したがって、

Article 9 certificate ≠ replacement for Article 8(1)

です。  

国内登録検査機関自身がサービスを完全に分けており、法9条の「特定電気用品の適合性検査」と、法8条1項の「電気用品の技術基準適合の確認」を別サービスとして明示していることからも、「別物よ」と言えます。 これは海外メーカーへの説明資料としてかなり使いやすい根拠です。

ついでに9条のPSE CoCを取るために送ったサンプルでついでにでてくるレポートは8条1項の安全の証拠には使えないという 、恐ろしい実務上の落とし穴もあります。

実務上の核心

特に輸入事業者側から見ると、

「9条のcertificateを持っているから安心」ではなく、輸入者自身が8条1項について説明できる状態になっているか

を見るべきです。

経産省や地方経済局から、

「この製品が技術基準に適合していると、御社は何を根拠に確認しましたか?」

と聞かれたとき、

「中国工場からPSE Certificateをもらっています」

だけでは、8条の質問に、トンチンカンに9条の条件を答えていることになります。

ここが海外メーカーとの特定電気用品のPSE Complianceで最も危険な取り違えの一つだと思います。 

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