話の種

安いハムを作るには。

前回は豚肉とデンマークのお話でしたが、今回は、安いハムはどうやって作るか、をお話しましょう。 皆さんが 普段食べている「ハムのような物」の話です。 

食べる方のハムですね。  前回ハムとソーセージの違いを申し上げましたんで、もうお分かりとおもいますが、ハムはロース肉やもも肉などの塊で作ります。  ロース肉で作ったのがロースハム。 もも肉で作ったのがボンレスハム。 ボンレスハムの意味はっていうと、字の通りでしてボーンレスハムつまり「ボー ン」骨が「レス」無いハムなんです。 ロースハムだってなんだって骨なんか無いじゃないかと言う方が居られると思います。 全くその通り。 骨付きのハム はあんまり見ません。 じゃぁなんで「骨なしハム」とわざわざ断るのか。

それはですね。 そもそもハムとはどういう意味か?というところから始まるんです。 ハムの意味は、なんと、もも肉のことなんです ね。 もも肉といっても人間のももを想像するとちょっと違います。 食肉で腿肉というのは、人間で言うお尻の肉と、外腿内腿をあわせた部分を言います。  この部分をハムと言うのです。 昔は主にこの部分から、塩漬けして、香辛料をつけて、寝かして、いぶして、乾して保存用肉製品を作っていたので、転じて、 この手の加工品をハムと呼ぶようになりました。

ところで、アマチュア無線家をハムと言うのはなぜか知っていますか? 私もよく知らんのですが、アマチュアの頭だけとって、アムと言っていたのが、どうも ごろが悪いのでHをつけてハムになったんだという話を聞いたことがあります。 (誰か正解を教えて!)

元に戻りましょう。  腿以外の部分。 たとえばロースは焼肉用で、肩や首の肉は煮込みか、切り刻んでソーセージだったのですね。 
もうひとつ、腿肉でハムが作られだした理由としては、肉の中に、太ももの骨、大腿骨が一本入っているだけなので、痛みにくいので長い時間かけて加工しやす かったというのも理由かもしれません。 骨を外すためにナイフを入れれば入れるほど、肉の痛みは早くなりますから。 ロースなんて背骨を外して、あばらを 外してと大変です。

さて、時代が変わって、腿肉と同じように塩漬けして熟成させてから食べるものを皆ハムとようになりました。 でボンレスハムですが。 本来骨がついたまま 加工する腿肉の骨を外して作るから骨無しハムと言う意味でボンレスハムと呼ぶようになったのです。

いまでは骨付きが珍しいので骨を抜いていないハムをわざわざ骨付きハムと呼ぶようになっています。

さて、残念ながら日本の皆さんが食べているハムのほとんどははっきり言ってドイツではハムとは認められない代物です。 まぁ日本で日本人が作って日本人が 食べているのですからドイツ人がなんて言おうが知ったことじゃないのですが、ま、率直に言ってうまくない。 皆さんの中で、ハムと言うと蒲鉾の様にぷいぷ りしたものを思い浮かべる方が居ると思います。 そういう人は。。。 あんまりいいもの食べてませんネェ。 失礼しました。

お断りしておきますが、ソーセージはプリプリでも良いんですよ、今言っているのはハムの話ですからね。 区別がつかない方は前号をご参照ください。

プリプリは安物です。 

これは日本で肉がまだとても高くて、それを加工して作るハムは、もっと高くて金持ちしか食べれなかった頃に、 生み出された方法で外国でもやってますが、日本ほど極端にやっているのは、韓国くらいで、あまり無いですね。 なぜハムがぷりぷりになるのか、お話しする 前にまともなハムの舌触りをお話しましょう。 冷えたとんかつの衣をはいで、中身の肉だけを戴くとざらざらした舌触りでしょ。 あれをちょっとしっとりさ せた感じが本物のハムの舌触りです。 味じゃないですよ舌触り。 (昔風の焼き豚をしっとりさせた感じとも言えますが、昨今は焼き豚もまがい物が多くて、 説明に困ります。)

ところが、日本じゃハムと蒲鉾の舌触りが大して変わらない。 何でだろうネェ?
理由はですね。 安いハムは注射されて水ブトリになっているからなんです。 肉に水に溶かした塩や香辛料などの調味料を、ぶっとい針が何百本もついている 注射器の親玉で注入して、短期間でハムを作る方法があります。 ハムを熟成させるのに何週間もかかっていたのが、この方法で数日でできるようになりまし た。 おかげで我々下々までハムが食べれるようになったのですが、ドイツではここでおしまいにしました。 

日本人は工夫が大好きでしてね。 この調味料に大豆蛋白や乳蛋白などの粉を混ぜ込んでやったら1キロのロース肉から1.5キロのハムが「できるかも?」と 考えたわけです。  でやっちゃった。 大成功ですよ。 1キロの肉から600gのハムが取れるというのが上物の世界ですからね。 倍以上歩留まりが上が るわけ。 
肉の組織の隙間にびっしりと粉末蛋白を水に溶かして作った濃い調味液をぶち込んで作ったハムは、プリンプリンですよ。  で、大豆蛋白って言うのは大豆油 を絞った粕を漂白したもんですが、やっぱり臭いんですね、大豆粕臭い、そこで、においを誤魔化すためにいろんなもんを突っ込んで、舌触りだけじゃない、味 からして変。 そのかわり安い。  当たり前です原料の半分近くが水なんだから。 水なんて日本じゃ唯みたいなもんだ。 水を足してはいけないというん じゃないですよ、ちょっと足すと、しっとりしていい感じになるんです。 でもね日本のほとんどのハムは足しすぎです。
 
左はスーパーで売っている一般的なハムの表示です。
赤線をした増量材だけで大豆たん白、卵たん白、乳たん白、ゲル化剤。
甘みの弱い乳糖や還元水あめも増量材と考えてよいでしょう。

日本では「水」は表示しなくてかまいませんが、ニュージーランドやアメリカなどの多くの国では「水」も原料として書かなくてはいけませ ん。 この表示だったら豚肩肉のすぐ右隣に「水」がはいります。

で、あんまり色々足しすぎて肉色素が薄まってハムの色が薄くなるから着色料(紫線)で色をつける。

この記事のために買ってきましたが、、、不味い。。。。
庭のすずめに処分をお願いしました。

そのかわり安い。 150グラムで300円。


じゃ、本当に昔風の作り方で作ったハムは値段はどのくらいかな? って言うと、1kgで1万円はしますね。 100g 千円だ。 ドイツじゃ、地下室なん かに入れとけばいいけど、日本は熱帯だから物がすぐ腐っちゃう、で冷蔵庫で熟成させる、熟成させている間の何週間分の冷蔵室の電気代、それから日本の土地 は高いから固定資産税なんてのが皆のっかてくる。 で高くなる。 

しかもおいしいハムの味を知っている人が居ないから売れない、で余計高くなる。

そうだ! 値段だけじゃないんですよ、良いハムを売る苦労は。。。。  私のお気に入りのお店で、神奈川の茅ヶ崎市で手作りのハムソーセージ売っているお店があります。  最初は大変だったそうです。 お客さんは、皆、安物に舌がなれちゃっているから、本物を食べても旨いと感じないんだそうです。  味を覚えてもらうまで4 年掛かったそうですよ。 

味といえばですね。 日本人は味の素が大好きでね。 おこうこなんかにも味の素をどっさり掛けちゃう人が居るくらいですが。。。。

味の素は、本名をグルタミン酸ナトリウムといいます。 アミノ酸の一種です。 アミノ酸ていうのは、皆さんのからだを作っているたんぱく質の材料みたいな もんですね。 べつに毒じゃない。 昆布にはやたらとグルタミン酸が入っていて、これを大量に食べた西洋人がグルタミン中毒を起こしたなんて話があります が、日本人が食べてもそんなことはあまり起きない。 これは日本人の食生活が昔からアミノ酸一杯だったのでアミノ酸慣れしているからだといわれています。

で、アミノ酸はですね。 塩気を弱く感じさせる作用があります。 たとえていいますとね、お味噌汁。 関東の方にはおみおつけ。 この味噌汁の塩分が1% から1.2%、田舎仕立ての塩辛い奴だと1.4%くらいある。 試しにね。 1%の塩水を作って呑んで御覧なさい。 塩辛くて呑めませんよ。 ところが、 お味噌汁だと飲めてしまうのです。 その秘密はアミノ酸、お味噌と言うのはご存知の通り発酵食品です。 大豆や米を発酵させて作ります。 つまり大豆や米 のたんぱく質がアミノ酸に変わるわけです。 

たくさんの種類のアミノ酸があればあるほど深みのある美味しいお味噌ですね。 このアミノ酸が味噌汁の中の塩気を弱く感じさせているので、1%の塩水をの んで塩辛いという人でも、味噌汁は塩辛くなく美味しくいただけるのです。

これがですね、ハムソーセージにもいえます。 ともかく味の素がが入っていると、美味しく感じる日本のお客様に、味の素を入れていない高級ハムソーセージ を食べさせると。 昨今の減塩ブームもありますが、しょっからい、健康に良くないと大騒ぎだそうです。
まぁこういう人たちは、「普段私はいいものを食べていません」と 店先で宣言しているようなものなんですが。 ともかくこの塩辛く感じるのが原因で、さっ き例に出しました私の友人は一時は売り上げが無くて悲鳴を上げていたそうです。

味の素をいれずに塩辛くしない方法として、砂糖やブドウ糖などの糖類を足す手もあります。

充分熟成したハムは熟成中にアミノ酸が肉から生まれて、塩気が弱く感じるようになりますが、こんな上物は皆さんの口にはめったに入らないから、忘れてよろしいです。

いいですか、結論。 良いハムはちょっと塩辛くて甘く無くてプリプリしていない。 

唯これだけ言うのに、ずいぶん説明ばかりが長くなりました。

原料や産地偽装のお話はこちら



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