話の種

煮えたワインは如何?

一部でプチバブル進行中のJAであります(この話は2008年に書いております)。 
ありえない値段でゴミのようなものが取引されております。 

まぁ、若いうち(あるいは初心者)は選択眼が貧しいので、誰でもゴミをつかんでしまうわけです。 
(結婚なんぞはその際たるもので、離婚率の高さがそれを物語っております。 また、還暦過ぎた爺さんがいきなり大型バイクに乗ってチンドン屋改造してしまっているのも 典型的例ではあります。) 

ワインも日本酒も教科書片手にウンチクを傾けていても仕方なく、美味しさがわかるまで、ひたすら飲み続けるしかないのはご存知の通り。
だいたい欧州でテーブルワインクラスの値段で売られている品に1万円つけて、、、まさに「売る馬鹿、買う馬鹿」ですが、こんな滅茶苦茶な日本のワイン市場 だから、どれが美味しいかわかるようになるには結構大変。
屑ワインが高級そうなラベルをつけて売られていたりする反面、名も知れない地域のワインなのでやたら安いが旨いというのもありまして、、、「かくしてワイ ンは難しい」と敬遠され消費が伸びない。

PGJの住んでいたZLのギズボーンホークスベイもワイン産地で、そんなところに7年も居れば、、、千本には届きませんが、数百本 飲んでますねぇ。 我ながら呆れた。 
まぁ、それだけ飲めば、飲んだワインの「当たり外れ」位はわかるようになります。

 
ここで重要なのは我々素人は「良し悪し」は判らなくていいということです。 
ソムリエさんではあるまいし、自分の好き嫌いと値段のバランスが取れているかどうか判ればそれでいいと言うことです(それが当たり外れ)。

さて、右に示しましたワインのラベル。 これが旨かった!とか、これは製品的にどうか?言うのではなく、見ていただきたいのが「品質保証 Reefer冷蔵輸入品 」の文字。

これがどれだけの意味を持っているかと言いますと、、、

現代の消費財の国際物流はほとんど下の写真のような海上コンテナに頼っています。



この写真のようなコンテナ船の上甲板の最上段コンテナの場合、直射日光でジリジリに炙られて庫内室温は70℃に達します。 
なにしろ天面では目玉焼きが焼けるぐらいですから。

貨物温度も缶詰食品の場合40℃に達し、ワインのような流動性の高いものはもっと高温になるでしょう。 
(温度の伝達は貨物の比熱、熱伝導のし易さ、容器内、コンテナ室内の対流のしやすさで変化します。 液体の場合は容器内の対流条件も大きな要素です)
ワインなんて煮えあがってしまいます。 

そこで、Reeferです。 

Refrigerator Containerの短縮語なんだと思いますが(たぶん)、これは冷凍食品を運ぶ為の冷凍コンテナと言うわけではなくて、-18℃から約+25℃の間の設 定された温度でコンテナ内の室温を制御しながら輸送できる冷蔵装置付きのコンテナです。
船から下ろしてもデバン(コンテナからの荷下ろし)まで冷蔵装置には電源が供給されつづけ、デバン後には温度チャート(温度変化記録)が回収され、温度が 指定よりずれてたことが確認され、それにより貨物に変質が生じた場合は運送保険で保険求償することになります。
この他にも、出荷全てのコンテナに温度ロガーを積載している業者もあります。

ワインに限らず、液体食品や飲料と言うものはコンテナを使う貨物の中では重い方です。 20フィートコンテナの制限最大積載量約20トンぎりぎり一杯まで 積めますから。 重い貨物は下甲板へ積めるだろうから直射日光は大丈夫! 
なんてことは実は有りません !
コンテナ船は、荷揚げ地、積載港、船のバランスなどを色々勘案して、もっとも燃料効率と本船作業(港での作業)効率の良い場所にコンテナを積載します。  (このベスト積載位置決定プログラムを開発した会社は大もうけらしい)。
何より優先は、「荷揚げ作業がいかに効率よく出来るか?」です。 ですから、ワインコンテナが重いとはいえ上甲板でBBQになるとしても不思議はありませ ん。 

物量をこなしている日本の輸入会社や海外の輸出会社は、船会社から「御得意様特別扱い」をしてもらえるので、「これはワインだから下甲板に積載しろ」とわ がままを言って、普通コンテナに積載して下甲板に積載させます。 (普通のドライコンテナとリーファーは運賃が倍違います。 今欧州JA間はドライ FCL1本で20万円くらい?識者の方教えて!) 
「上甲板に載せたせいでワインが駄目になった補償しろ」と抗議しても船会社には鼻で笑われます。 
「御心配でしたらリーファーを御使いになってください。 荷物に適した積載方法の選択は荷主様の責任です。」からね。

下甲板ならうまくいけばコンテナ室温が上がっても30℃(だいたい海水温と船倉の温度は同じと考えればよろしい。 欧州からでもオセアニアからでも日本へ 来るには、海水温約30度以上の赤道の海を通りますから、コンテナ庫内温度もだいたい30℃になります。 つまり製品温度もあがるけれど普通は30度まで は達しない。 FOB(工場出し)1000円程度のワインなら、これで十分です。

ところが年間10本程度(200トン程度)の僅かな量の独立系輸入業者さんは、そんな特別扱いは船会社にしてもらえません。 そこで自衛策として煮えワイ ンにならないようリーファーを使うわけです。

無論、大口ユーザーで下甲板に漏れなく積んでもらえても、高級品や熱に弱いワインはリーファー使用が望まれます。 
下甲板でも機関室の近傍は40℃まで行きますし、エンジンの振動や波濤との船体の衝突振動が製品の劣化を進めますから、万全を期したい会社はリーファーを 使います。

上甲板で揺れるから下甲板の方が良いと思うのは素人考えでありまして、コンテナ船は外洋航行時には左右15°づつ約1から2分で1往復揺れながら航行して おります。
この揺れの影響は上下的位置はあまり関係なく、ワインへのローリングの影響も上下の位置とはあまり関係ない。 
むしろ、下甲板積載では、エンジン振動や、船体と波の衝突による衝撃のような周波数の高い振動を多く受けますが、容器内の酸素含量が無視できない場合、こ の方が酸化が進むんです。
下甲板なら安心 というわけでも無いんですよ。 

最悪が「上甲板最上段」 > 極悪が「上甲板のどこか」  > ちょっとなぁが「下甲板船尾寄り」 > まぁまぁが「下甲板船首寄り」 > 最上が「リー ファーコンテナ使用」  というわけです。

さて、なぜあのフランスのボルドーがここまで有名なったのか?
あれは熱や輸送に強いんですよ。 リーファーに入れなくても何とかなってしまう。 それで海上輸送したのに比較的旨いというので、昔から有名でした。

もっとも港のCY(コンテナヤード)で1週間通関待ちでドライコンテナを放置していたら、、、 日本の5月の日差しでも中身の温度は40℃を超えますか ら、さっさとデバンしましょう。 これで全損した食品輸入会社を私は知っているhi 

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ところで、ワインをデバンした後の保管条件も重要です。 せっかくリーファーで運んでも、、、、東京港大井の中堅輸入食品 会社の倉庫で真夏に30℃以上になっている場所に保管されているワインを見たことがあります。 せっかくリーファー使っても、これじゃぁねぇ。

というわけで、日本でワインを買うのは結構「難しい」
PGJの場合、とてつもない値段ではない「普通のワイン」は、大手ビールメーカーが輸入販売しているものがワイナリー選択、輸送保管すべての面で比較的無 難であると感じております。

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