話の種

白衣の話

お医者さんの白衣は「作業着」です。 お百姓が着ているツナギや、電気工事技師が着ているポケットだらけの服、潜水士の潜水服と同じで、作業上の必要性の ために着る服です。 これは警察官や軍人の「制服」のように地位や職務を社会に知らしめるべく着ている服とは似ているようで役目が違います。

白衣は作業着

ところが、この、安いものは2000円ちょいで買える芸の無いピラピラの服を、社会的ステータスだと思って着ている人が、医師に限らず居るから困るので す。 

職業に貴賎なしとはいえ、昔ほどではないですが、他の仕事と比べてお医者 さんは尊敬されるべき仕事です。 お医者さんが着ているのが白衣。 で白衣を着ている人は偉い人。 という認識が生まれてしまったのでしょう。 日本は昔 から身分によって着る事が出来る着衣が厳然と区別されていましたから、ドレスコードによる身分の区別を受け入れやすい文化でもありました。 で、この傾向 は他の国に比べて強いかもしれません。

そのお医者さん ですが、なぜ白衣を着ているのか? を考えてみた事はありますか? 

1.広い意味での汚れ防止。 

外科などで怪我人の手当てをするとき血液などが自分の服や体に付かないようにする為に着ます。 だれだって汚くはなりたくないですから、これは当たり前。

2.衛生上の汚染防止

外科に限らず、その他の診療科目でも感染性の疾病を持っている患者さんは少なくありません。 患者さんを手当てした際に、患者さんの血液や体液、くしゃみ の飛沫などがお医者さんに付着するのを防ぐ為に白衣は用いられます。 

3.偉そうに見せる為に着る

特に女性や老人に多いですが、偉い先生に「あなたは大丈夫です」と言ってもらうだけで安心してなおってしまう人々がたくさん居ます。 この様な場合、立派 な白衣は大変役に立ちます。 これもひとつの治療テクニックです。  昔、高僧に「病魔よ、去れ!」と言われただけ治ったなんていうのも、これと同じ理屈 です。 信じるものは救われる。

院内感染拡大装置=白衣

さて、問題は2。の衛生上の汚染防止です。 医師看護士問わず医療従事者の多くが疑いもせず白衣を制服のように思っています。 これが食品業界から見ると 考えられない馬鹿げた状態に見えるのです

病院には色々な病気や怪我の人が来ます。 風邪や、インフルエンザ、肝炎、水虫、など他の人にもうつる病気。 ぎっくり腰や捻挫、高血圧や心筋梗塞のよう な他の人にはうつらない病気。 また、うつらない病気で病院に診療を受けに来た人も、本人も気付かずにMRSAやVREのようなメシチリンやバンコマイシ ンなどの強力な抗生物質でさえ効かないブドウ球菌や腸内細菌などの始末に悪い細菌を体に持っている事があります。
と云うわけで、病院はヒトの病気の元になる細菌やウイルスなどの微生物であふれかえっているわけです。 

ですから、お医者さんも看護士さんもその医療技術者の人たちも、形は違えども白衣を着ているわけです。 それは本来
・ 「自分が病気に罹らないようにする為に」
・ 「自分が病気を振りまかないようにする為に」です。

特に感染性の高く、かつ致死率の高い病気に罹っている人の治療をする場合 は、自分がその病気に罹らないようにする為に、使い捨ての白衣、保護めがね、高密度フィルターの付いたマスクを身につけて行います。 
医療従事者が病気に罹ったら、治す人が居なくなるので、これは大事な事です。 ところが、もう 一方の「自分が病気を振りまかないようにする」という事に対しては、日本の医療機関は、他の先進工業国とくらべて珍しいくらい立ち遅れています。
大きな病院の食堂に行くと、患者さん、お見舞いの人、お医者さんに看護婦さん、事務方の人々が入り混じって食事していたりします。 院内感染の温床が「雑多な人間の不特定接触」としたら、まさに食堂は汚染源です。 なぜなら、皆作業着である白衣を着たまま食堂をうろついているのです。 
インフルエンザの患者さんが多い内科の先生もいるでしょうし、その他の細菌やウイルスの感染源の患者さんと、知らず知らず濃密な接触をした看護士さんも居るでしょう。 それら汚染された白衣のまま、人ごみの中には入り、お互いに汚染しあい、それぞれの病棟へ帰っていくのです。  食堂に限らず、職員が会議 に使う部屋にだって色々な部署から人が集まりますから状況は同じ。

馬鹿です。 

中には、薬品を調剤して、患者さんとは接触の無い薬剤師さんも居るでしょう。 薬剤師さんの場合には、自分に付いているかもしれない感染原因を調剤する薬に付けないという観点からも白衣を着ていますが、その白衣を感染の塊にするためにわざわざ白衣をつけたまま調剤室の外へ出かけていくのです。
食品メーカーの白衣のほうが綺麗なわけ

工場 まっとうな食品工場では白衣は純然たる作業着であり。 作業現場でのみ着 る物です。 私の工場でも食事やトイレの際には脱いで普段着に着替えてから行く事にさせています。 また、ZLの食肉工場、乳製品工場では、作業段階ごとに着る白衣が ことなり、部屋を替わるたびに着替えさせられます。 先進国のまっとうな食品工場ではそれくらい、微生物汚染防止という事に気を使っているのです。

作業着の洗濯も工業的洗濯業者に出して、「家庭で洗濯してもらう」なんてことはありえません。 
家庭で下着と同じ洗濯機で洗ったら白衣が大腸菌まみれになります。 大腸菌だけで済めばいいけど。。。。
洗剤の香料がついたりもします。  とても食品工場の作業着としては使えません。

まともな食品メーカーは外部に委託洗濯に出していますし、着替えの数も洗濯のサイクルを勘案して「一枚多め」くらいの感じで用意しています。
最終製品の色沢検査ばかりやっている人は白衣は自分の服の汚れ防止ですから数日に一度でいいでしょうし、製品の細菌検査している人は毎日交換でしょう。


ところが、体力が落ちて、普通にヒトに付着している細菌でさえ、それが原因で重篤な症状に陥ってしまう弱った人がたくさん居る病院で、白衣を「制服」のように考え、何処へ行くにも同じ白衣を着ている人のなんと多い事か。
そのような状態では、院内感染なんて起きて当たり前です。  
白衣は自分の働く場所に置いてくるべきなのです。

どうして、こんな事が起きるか?

白衣を着 ていると皆が頭を下げてくれるから。 理由はそれだけでしょう。

私も学生時代に化学実習の空き時間に、隣接の医学部棟へ、白衣のままお茶を飲みに行った事があります。 患者さんたちが頭を下げられます。 こっちは何で お辞儀されるのか分からずポカンとしていました。 お茶を飲みながら「白衣だ!」と分かったわけです。 (化学実験の場合の白衣は、薬品によるヤケドなど の災害から身を守る為に着ます)
これが、医療従事者が白衣を脱げない理由なのでしょう。 そして因果(院内感染)は巡る風車。 今日もあちこちで死ななくてもよい人が死んでいきます。

さて、この馬鹿な話は、病院だけではありません。

とある研究所 にて

某食品業界団体 の研究所で見た光景ですが。 そこの技術系職員が白衣のまま、外に出てきて車で食事に出かけていってしまいました。 その人は食品の細菌検査などをする訳 ですから、サンプルが自分の服や体についている細菌に汚染しないように白衣を着るわけです。 その白衣を町の中で着れば外界の「バイキン」を大量に検査室 内に持ち込むわけです。 正確な検査が期待できなくなります。 つまり、その人は、なぜ自分が白衣を着ているのか、まるっきり分かっていないわけですね。  それと、ある種の人々には、間違えなく白衣への憧れが有ります。

とある、日本の惣菜会社の工場。

事務所でも皆、工場用の白衣です。 
素人の工場見学者には、清潔な雰囲気の工場に見えるのでしょう。
しかし玄関先の掃除をしていた人も、同じ白衣。。。。
朝は工場前庭で白衣のままでラジオ体操。。。  
それで、食品生産現場に入っていくのか?おい! と聞きたくなりました。

このように、作業着と制服の切り替えの出来ていない人々が、あなたの家族の命を縮めてくれるのです。

これは、衛生には関係ないですが。

とある県の公安委員会運転免許試験場

日本の運転免許証の更新に行った際、白衣の係官が出てきて交通安全について講義をしていました。 私は彼に白衣を着る合理的理由を全く見出せませんでし た。 
おそらく白衣を着る人は偉いという思い込みが警察社会にはあるのでしょう。 それで着たかったとか?

白衣。 ただの作業着なんだけどねぇ。

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