脱酸素剤は正しく使おう。

 

脱酸素剤と言えば「エージレス」。  エージレスは、三菱ガス化学の開発した脱酸素剤です。  

エージレスは、80年代から主として非液体食品用の賞味期限延長用素材として有名な脱酸素剤でした。 0℃から35℃で保管流通される真空パックでない一般食品と云うのは、ともかく腐りやすいカビやすい。 乾燥食品や、一部の高衛生度の工場の特定製品を除いて、ある程度の賞味期間を維持する為には、どうしても保存料が欠かせませんでした。  そこへ登場したのが脱酸素剤エージレスでした。

 

ともかくよく効く。 いままで、カビなしカステラは、麗しい衛生的な工場を持つ文明堂の専売特許だったのが、街のケーキ屋でも長持ちするカステラを作れるようになったのは、エージレスのおかげです。 また、保存料の使用が認められている食品はかなり限られていますし、資格も必要だから、それらに該当しない食品を生産している工場や店舗には、エージレスはまさに救世主でした。

 

なぜ脱酸素剤は効くのか? 

多くの食品を腐敗させたり、食中毒の原因になったりする細菌は酸素が生命活動に必要です。 平たく言えば人間と同じで、息が出来ないと動きが取れない。 ですから、食品の周囲から酸素を奪ってしまえば、それらの細菌は動きが取れない、だから痛まない。 というわけです。  

 

   
 


栗饅頭などの和菓子を例にしてみましょう。 昔は栗饅頭はほとんど、菓子屋の店頭で木の桶に入れられて裸で売られていました。 お菓子屋さんもほぼ毎日、アレだけの品揃えを作っていました。 それは昔のお菓子は、むき出し、もしくは和紙やセロハンで簡易包装する程度で売られていましたから(絵の左)、ともかく日持ちがしなかったからなのです。 1週間もすれば漏れなくカビが生えました。

いま、町の和菓子屋さんで栗饅頭を買うと、殆どの場合がプラスチック製のフィルムに入れられて密封されて売られています(右の絵)。  これのおかげで今、栗饅頭は平気で1ヶ月以上持ちます。 

 

昔と違って、お菓子の世界でよく効く保存料が出来たというのでも有りません。 というか、明治以降、1970年代くらいまでの食品添加物はかなりひどかった。 昔の食品は添加物が少なくて安全だったというのは、まったくの勘違いです。  食品の安全性は歴史をさかのぼれば遡るほど、危なっかしくなっていきます。 だから人生50年と信長も謡ったわけです。

冷蔵庫のない時代には高塩分、高糖分で物を保存することが多く、それらは間違いなく高血圧やその他の病気の原因です。 いまどきの食品添加物の毒性を語るよりも過剰な塩分の「毒性」は言うまでもないですね。 無添加無農薬カルトのお馬鹿さんには理解不能らしいけどhi。

 

閑話休題、で、この、新しいプラスチックフィルム包装とエージレスのような脱酸素剤のおかげで栗饅頭の賞味期間が飛躍的に延びたのです。 但し、ただ、単純にエージレスを栗饅頭にくっつければよいと言う物ではない。 エージレス、脱酸素剤は密封容器と組み合わせて初めて効果が出るわけです。 

全ての脱酸素剤は、その小袋が入れられた周囲の酸素を吸着する作用を持っています。 つまり、栗饅頭の入ったプラスチックフィルム袋の中を酸欠にしてしまうと言う訳です。 こうすると栗饅頭の表面に貼り付いている細菌やカビは、死ぬ事は絶対有りませんが、正確な表現ではないですが気を失って増える事が出来ません。  

おかげで賞味期間が飛躍的に延びることになりました。

 

ここで大事なのはプラスチックフィルム容器が密封シールされていなければ成らないという事です。 袋の口がヒモで縛ってあるだけとか、折りたたんであるだけでは全く駄目。 また、プラスチックフィルム容器の表面に針で突いたような小さな穴があっても駄目。 そこから大気中の酸素が容器に入ってきますから、結局、エージレスの酸素吸着容量を超えてしまいます。 つまり、酸素を吸いきれなくなってしまいおなか一杯状態になるわけです。 こうなると、栗饅頭はあっという間に青きな粉をふったようにカビが生えてきます。

 

どうして、脱酸素剤が無いとこんなに簡単にカビが生えてしまうのでしょう? それは、栗饅頭にもともとカビの胞子がついていたからです。 栗饅頭は焼き菓子ですから、オーブンの中で160度くらいで焼きます。 ですから、基本的にカビなどが表面に生き残っているわけが無い。 

 

しかし、一般的な菓子店の厨房や低レベルな和菓子工場では、オーブンから出した途端に空気中に舞っていたり、作業する人の手指や作業着に付着していたカビの胞子が、栗饅頭の上に舞い下ります。 まして、一般家庭で作れば一撃ですね。 つまり、冒頭で書いたように、クリンルームのような衛生度の高い部屋で作っている食品以外は、カビに限らず微生物に汚染されているわけです。

 

エージレスの発想は、汚染が避けられないなら、汚染されても増えないようにしましょうというものです。 これは冷蔵庫や冷凍庫の発想 「お刺身には細菌が一杯ついていて痛みやすいけれど、十分冷やしておけば、細菌が増えないから長持ちする」と言うのと同じです。

 

さて、この便利な脱酸素剤ですが、販売している人や、使用している人の無知で有効に使われていないケースが多々有ります。

 

いくつか例を示しましょう。

誤った使用法の例

 

·        真空包装ウインナーに使用したケース。

 

保存料無添加ウインナーは痛みやすいので、真空包装することが多いです。 ある食肉加工工場、賞味期間が3週間は無いと販売上困るのだけど、その製品の日持ちがともかく悪くて困っていました。 あるとき日持ち向上にはエージレスが良いと聞きつけてきて、ウインナーの袋にエージレスを入れて、さらに真空包装しました。

真空包装するならエージレスは不必要。 だって、真空パックの中には脱酸素剤がつかめるほどの酸素は残っていません。 つまり、こういうのを無駄なコストと云うわけ。 おそらく資材業者に「これ入れると長持ちするよ」とか言われたのでしょう。

 

·        密封していない容器に使用したケース。

 

ある「鮭とば」を売っていた漁協の話。 「鮭とば」と云うのは、鮭の切り身を乾燥させたもので、酒の肴には結構な一品です。 これは鮭を切り身にして、寒風で乾かして作る製品で、浜の屋外で作るから基本的に微生物にまみれています。 しかし塩分が高いので比較的カビが生え難い(生えないとは言わない)。 一方、これは油脂分が高いので、脂が酸化すると風味が悪くなる。 脂の酸化も酸素が原因ですから脱酸素剤の容器内への封入は風味が劣化するのを守ります。

 

で、青森に住む友人から、これを貰った私。 見てたまげた。 「鮭とば」の袋の封がされてない。 折り返して、セロハンテープで貼ってあるだけ。 もともと乾燥食品ですから、傷みにくく、私のもとに届いたときも風味を保っていましたので、美味しく頂きましたが、この包装形態にはあきれ返りました。

 

おそらく、漁協にこの脱酸素剤を売った資材店、使った漁協の人たち、ともにマニュアルを読まなかったのでしょう。 (もしくは理解するだけの知識が無かった?)。  「これ入れたら長持ちするらしい」の理解で使っていたのでしょう。  当然のように、脱酸素剤は酸素を吸いすぎで全く効果を持っていませんでした。

さらに、この場合の袋は、ガスバリア性能のまるで無いフィルムでしたから、仮に密封したとしても、袋のフィルムを酸素がどんどん通り抜けて、結果は同じだったでしょう。  

プラスチックフィルム袋入りのせんべいに除湿剤が入っているのは、フィルムの性能が悪く、湿気がフィルムを抜けてくるので、それをつかまえる為です。

このようにプラスチックフィルムは微量ながら湿気や空気を通します。 脱酸素剤の酸素吸着可能量と、袋からにじみこんで来る酸素量のバランスを計算する事は、賞味期間を設定する上で大事な要素です。

要するに支出と収入の関係ですね。 言い換えれば漏水と漏水ポンプの関係。

 

最近除湿剤の入っていない袋入り煎餅が売られていますが、それは除湿剤を入れなくてOKな高価で高性能なフィルムで作った袋を使った製品の事が多いです。

 

·        水っぽいものに使ったケース

 

多くの食中毒菌は酸素が無いと育つ事ができませんから、脱酸素剤は食中毒を予防します。 しかし、使い方を誤ると死人を出します。 細菌のなかには、酸素がなくなると育ち始める根性の曲がった種類の細菌がいます。 その昔1980年代に真空パック辛子レンコンで11人の死者を出したのも、その中の1種類のボツリヌス菌です。 

細菌は温度が低いと増殖しません、酸っぱい食品のなかでも増えません。 塩分や糖分がたくさんある中でも育ちません。 これらの理屈を使って昔からの食品の保存は考えられています。 例を挙げれば、温度が低いのは冷蔵庫、冷凍庫。 酸っぱいのは酢漬け、塩分での保存は塩漬け。 糖分たっぷりはジャム。 水気のが無いのが鰹節。 

 

ところがそうでない食品、例えば、ゼリー寄せのようなものを、安易に真空パックや、脱酸素剤パックなどのような無酸素包装すると、酸素の嫌いな細菌は大喜び。 せっせと毒素を出します。 以下は大丈夫な水気の多い無酸素包装(真空パックを含む)食品の例です。

 

スライスハムのパック(無酸素か真空パック)。 

発色剤である亜硝酸塩はボツリヌス菌をおさえる効果があるといわれています。 おかげでハムーソーセージ類は無酸素包装しても安心。 ただし発色剤保存料無添加の製品は。。。 「怖いねー」とは日本の某保健所。 

 

 

こちらは某社のスライスハム。 一見普通のトレーパックに見えるけど。 実は酸素バリア性の高いフィルムで包装して脱酸素剤が封入してある。 こうすると着色したりしなくても退色しにくくなるんだよね。 えらいものだ。 酸化防止剤や着色料を入れない分原価は下がっても、実は包装容器で利益を食われてしまうのに、あえてこうすうするのは結構な決断だったろうなぁ。 (大学の先輩が勤めているらしい。 恩師語る)

しめ鯖の真空パック

酢と塩で〆て、冷蔵で流通販売しているから大丈夫。

 

魚肉ソーセージ。

高温高圧殺菌してあるから大丈夫。

 

小魚の寒天寄せの無酸素パック。

もし、味を酸っぱくさせて調製してあればOK。 そうでないなら。。。。。

 

うなぎの蒲焼の真空パック

あれは冷蔵品だから冷蔵庫に入れていればOK。 そこら辺に放置したら。。。。。

 

レトルトパックカレー

レトルト殺菌してあるから、真っ当な殺菌技術者のいる工場の製品なら大丈夫。 

 

·        劣化した脱酸素剤をつかった。

 

脱酸素剤には、いろいろなタイプが有ります。 すぐ酸素を吸いだすタイプ。 ある程度の湿度があって始めて効果を示しだすタイプなどなど。

結構有るのですよ、すぐ酸素を吸いだすタイプを大気中にさらしっぱなしにして駄目にしてから使っているお菓子屋さん。 

脱酸素剤が入っているお菓子などを買ったら、開封直後に脱酸素剤の小袋を持ってて御覧なさい。 熱くなってきます。 これは中の鉄粉が酸化されて発熱しているからなのです。 逆の意味で言えば発熱しないのは、脱酸素剤が効果を失っているという事でして。。。。  我が家ではそのような食品はゴミ箱直行。
   


昨今では、酸素検知マーカーのついた脱酸素剤も売られています。 上右の写真は和菓子で有名な虎屋の包装形態ですが、酸素バリア性の高い容器の中に酸素検知マーカー付きの脱酸素剤(「エージレス」ではないけれども)が封入されています。 容器の中は低酸素状態になっているので、マーカーはピンク色をしています。
これを開封して酸素に触れさせると見る見るマーカーは紫色に変色します(黄矢印)。
これを見れば容器にピンホールが起きていればすぐに分かります。 たいてい容器には「開封前に色が変わっていたら食べないでね」というような意味の表示がなされています。 
また食品工場で使用前にマーカーが変色しているようなら、脱酸素剤の保管状態が悪かったことを示しているから、そのような脱酸素剤を製品に使用するリスクを減らせます。
素人さんの分からんところで食品メーカーは苦労しているのですよ。


家庭で脱酸素剤を使ってみよう。


当然エージレスなどの脱酸素剤は業者向けの資材で、素人さんは手に入らない。 ところが意外なものが使えるんですよ。 それは使い捨てカイロ。 一般家庭で脱酸素剤を食品の保存に使うケースはありませんが(あっても止めとくように、素人には無理)、精密機器の保管や写真やフィルムの保管、CD-ROMなどの保管には使えます。

クッキーの空き缶や、密封できるプラスチック容器に対象物を入れ、使い捨てカイロと、除湿剤を入れておけば、湿気と酸化を嫌うものを、かなり長期間変質せず保管できます。 

この際の注意点は、

·        なるべく小さい箱にしましょう。 大きいと中の酸素量も増えて、カイロが発熱してフィルムなどを痛める事が有ります。

·        大きい箱を使うときは中身をぎっしり詰めましょう。 といっても10リッターが限度だと思いますが。

·        蓋周辺に隙間の全く無い密封できる箱を用意しましょう。 隙間があるとそこから酸素と湿気が供給され続けます。 全く無意味。 泉屋のクッキーの缶などがよろしい。

·        カイロは、空き缶などに入れて箱にしまいましょう。 カイロの中身は鉄粉と塩(エージレスも同じ)、破けると塩が飛び散ります。 また蓋を閉めてすぐの間はわずかに発熱しますから、熱で中身が傷むと困るものとの距離(数センチ)をつける役目もします。.

私はこの方法で、デシケーターに詰めた数キロの香辛料を保管していました。 空気バルブの無いデシケーターを使うと弱真空になって、蓋が開かなくなります(笑) 

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