話の種

正しい手の洗い方(手を満足に洗えない人達)。 

食中毒防止など 

人の手指に付着している細菌などの数をめぐっては学説が色々ありまして、手のひら1平方センチに10万個居る とか親指の先は1平方センチあたり100万 を越すとか 色々あります。 なにしろ、その検査対象になった人の生活や、環境、手の洗い方の良し悪しで全く違う数字が出てきますから、定説と云うのが無 いわけです。 ただし、必ず言える事は、誰の手でも衛生上「きれい」な手にするには、かなり努力を要するという事です。

あなたはバイキンの塊。

手に限らず、あなたの体の表面(無論体内も)は微生物のすみかです。 人の表面積は概ね1.6平米程度で、乱暴な計算をすると、だいたい100から200 億個の細菌、カビ、酵母などがあなたの皮膚の上で暮らしている勘定になります(正確な表現ではないですが分かりやすくする為に、このページでは、以下これ らをひっくるめてバイキンと呼びましょう)。 

さて、こんな小汚いあなたが食べ物に触れば、その食品はバイキンに汚染されてしまいます。 汚染された食品はバイキンの種類が物を腐らせる種類であれば食 品は腐っていきます。 毒を出す種類であればおなかを壊したり、最悪、死んだりします。  体の中に入って感染症を起こすものもあって、病気になったりし ます。  

ひところ不潔恐怖症の人が、抗菌スプレーや抗菌ティシューを持ち歩いていましたが、大抵こういう人は自分が無菌で、自分以外の人はバイキンの塊だと思って いるようですが、皆さん一様に平等に微生物学的には不潔です。

薬用石鹸はおまじない程度

そもそも抗菌と云う言葉は微生物学や公衆衛生学の用語にはありません。 どこかの家庭用品会社のマーケティングの人が考えた新しい言葉です。 衛生学の世 界では強い順に滅菌、殺菌、消毒と云う言葉を使います。 消毒と云うのは、「病原菌を必要十分なレベルまで少なくするか弱くしよう」とする操作のことで、 「患部を消毒する」と言ったら、
「怪我の部分についているバイキンを全部は殺せないけど、患部が悪くならない程度に、傷を悪化させる種類のバイキンを殺すか活動できなくする程度に痛めつ けられる操作」
のことを言います。 抗菌と云うのは、この消毒よりさらに弱い効果しかないわけです。 

さて、抗菌グッズの他に、殺菌剤の入った薬用石鹸なるものがありますが、確かに手についているバイキンの数を半分とか1/10にできるのですが、バイキン を殺す殺菌剤と汚れを落とす洗浄剤は、混ぜるとお互いに効き目を弱めあうので、あまり効果は期待できないのです。 1/10に減らせたら万々歳と思いま す?  じつは大間違い。 

正しく手を洗えば、手のバイキンの数は百分の1、千分の1、万分の1にできるのです。  いいかえれば、そこまで減らさないと食品衛生的、医療衛生的には 手を洗う意味が無いのです。 なぜなら、バイキンは超ねずみ算的に増えます。 条件が整えば、朝、弁当を作った時に100個だった一切れの玉子焼きについ ているバイキンは昼ごはん時には一切れに100万個になったりもするわけです。 ですから、衛生の世界ではバイキンを減らす際には何千分の一何万分の一、 何十万分の一に減らせたかを語っています。 と云うわけで、抗菌グッズや薬用石鹸の「10分の1に減らせますー」 は、私ら食品技術者から見ると「馬鹿く さい」シロモノなのです。  まぁ、「家庭で料理をする前に手を洗うために使う最低限の消毒性能しかない物」と思っていれば間違いないでしょう。  

(ただし、食中毒防止と云う面からはたいし た事なくても、丁寧に手を洗うという事はインフルエンザの防止には有効な手段のひとつですから、外から帰ってきたときは手を洗う習慣は大事ですよ)

手の洗浄剤や、「抗菌タオル」などで、「バイキンをここまで殺せます。」 とやっているのは、たいてい試験管内で実験で、インビトロ 試験と呼びます。 実際に人の肌で試験(インビボ試験)するとあんな麗しい結果は出ません。 
健康食品の試験結果でもよくありますが、ここいらがわかっていない素人を騙すのは、あの人たちには簡単です。 
「学会で発表された」等の表現もありますが、ヨタ学会もありますし、学会に属する学者たちが、その発表を科学的に正しいと認めていなくても、とりあえず発 表するのは自由ですから、「学会で発表された」=事実である ではありません

正しい手の洗い方。

食品を取り扱う場合、体の部分でもっとも食品と触れ合う機会が多いのは手指です。 ですからハムソーセージ、乳製品、豆腐、納豆、カット野菜、調理パンな どの冷蔵流通食品業界では手の洗い方は大変やかましく言われます。 (やかましすぎて守れていない工場もあるくらいですが) また、この他に手の洗い方の 大変上手なのが外科の手術医の先生達です。
(ちなみにZLでは外科の手術をする先生は、医者扱いしてもらえません。) 

外科医が手術する際に洗う場合。

まず指輪と腕時計を外しましょう。 これらはバイキンのアパート、デパートです。 

手と前腕をぬるま湯でザッと洗います。

石鹸、もしくは洗浄剤で丹念に洗います。

指は広げて、左右の指を交互に組む形で洗います。

手の甲も洗います。

更にブラシで、皺の中も丹念に洗います。

これを最低3分行い、すすぎます。

次に消毒薬(逆性石鹸が多い)を手につけ同様に良くもみ洗いします。

軽くすすいで、清浄な使い捨て滅菌タオルで手を拭きます。

そして、滅菌済みゴム手袋をはめます。

この方法を続けると、はっきり言って手が荒れます。 外科医の先生はそうそう毎日、朝晩4回手術するわけではないから、これくらい丁寧に手を洗っても、実 害は無いです。 しかし、食品工場では頻繁に手を洗いますから、外科医のような手の洗い方をすると手が荒れます。 手が荒れると手についている黄色ブドウ 球菌と云う食中毒の原因細菌が驚くほど増えます。 これでは元も子もないですから、食品工場では、手荒れの少ない石鹸で洗って、そのあと刺激の少ない弱め の消毒剤を使って手を洗います。 そして、殺菌済みグローブをするわけです。

一番皆さんが意外に思われるのは、普通に石鹸で手を洗っただけでは手についているバイキンの数は殆ど減らないという事です。

ですから、食品工場でも外科の先生でも、汚れを落とす意味で石鹸などの洗剤で手を洗い、そして、次亜塩素酸溶液やアルコールなどの消毒液で、手についてい るバイキンの数を減らすのです。

最後の最後に重要なのは衛生的なタオルで手を拭くことです。 台所に良くある下げっぱなしのタオルで手を拭けば、元の木阿弥。 あれはバイキンの巣です ね。 使い捨てペーパータオルやロールアップ式のタオル、もしくは温風乾燥機を使って手を乾かします。 
このように手を正しく洗うのは大変なことなのです。 家庭で正しい手指の洗浄が出来ていると思ったら大間違い。

陸上自衛隊衛生隊の正しい手洗い動画は参考になります。


勘違いな手の消毒方法。

惣菜工場などで、一般消費者の見学を受け付けているところで、会社の入り口に逆性石鹸を洗面器に入れて置いてある会社があります。 「手を消毒してからお 入りください」と札がついています。 
消費者向けの衛生イメージの為にやっているのならわかりますが、本気でその会社の衛生責任者が思っているのなら、私はその会社の製品は食べたくないです ね。 逆性石鹸は手の皮脂などの汚れを落とさないとバイキンを殺せません。 そのためには石鹸などの洗剤を使った手洗いが必要です。 ところがそこには逆 性石鹸の液しかおいてありません。  つまり、「くその役にも立たない」と言う訳

こういうわけわからん勘違いは良く見られます。 とある関東北部のU市保健所は、食品工場の生産ラインに消毒用アルコールを洗面器に入れて置かせて定期的 に消毒しろと言い出したことがあります。 周りでは加工機械のモーターがスパーク出しているのです。 いつ引火爆発するかとヒヤヒヤもの。 日本では多く の場合、実務経験無しで保健行政に就職できますから、こういうわけ分からん指導をする保健行政吏員が居たりします。
 

ブドウ球菌で手を汚すな。

さて、手を洗ったら後は未来永劫大丈夫かと云うと、とんでもない。

あなたの体の表面はバイキンの巣。 鼻水、目やに、髪の毛はこれまた黄色ブドウ球菌の巣なのです。 MRSAという言葉を聴いた事があると思います。 メ シチリン・レジスタンス・スタフィロコッカス・アウレウス、メシチリン耐性黄色ブドウ球菌のことです。 これは、ほとんどの抗生物質が効かないブドウ球菌 で、肺炎などを引き起こしヒトを死に至らしめます。 院内感染の代表選手です。

そして、健康なヒトでもMRSAやもっと強力なバンコマイシン耐性菌や、その他の抗生物質耐性の無い普通のブドウ球菌などを体に持っているのです。 た だ、健康なうちは抵抗力があるので、免疫機能が働いてそれらを抑えているだけです。  

皆さんだって、お医者さんだって、それを知らず知らず体で飼っている人がたくさん居ます。 手を洗った後で、鼻が痒くて鼻をこすったり、メガネをいじった りしたら、それでおしまい。 手はすっかり汚染されてしまいます。 これは意外と気付かずやって居る事が多いので、余計たちが悪い汚染源です。 意外に思 うかもしれませんが、目、髭、髪の毛、耳、口は非常に汚染度が高い部分なのです。

ブドウ球菌はエンテロトキシンという100℃で煮ても壊れない毒素を出すので、食品工場でも特に気をつけている細菌です。 手を洗った後で、髪の毛の乱れ を直したりするパートのおばちゃんが居る食品工場では現場の係長は大変です。 髪の毛もブドウ球菌の棲家ですから。。。。

この様に、手に清潔に保つ事は大変な努力を必要とします。
言い換えれば、一般家庭で、素人が微生物学的に無菌状態の食品を作る事は無理なのです。 ですから、お弁当を作ったり、料理を作ったりする際には、ともか く、丁寧に手を洗って、良く火を通して、すぐ冷やして、早めに食べきる。

これにつきます。  お弁当作りながら、髪の毛のセットが決まったかしらとか 触っているあなた。 あなたはお弁当を食べるヒトに恨みがあるのですか?

愛知万博で「家庭料理は食中毒のリスクが低い」などと 大嘘をこいてコンビに弁当を持ち込み禁止にした人が居ましたが、 あれはいったい何なんでしょう ね?

再三申し上げますが、食中毒の最大の原因場所は家庭の台所です。
そして、次はレストランや、惣菜店、一番マシといわれているのが食品工場です。 食品工場は運営にそれなりの学位が必要だから当たり前といえば当たり前で すが。
指輪や、腕時計をつけたまま食品を加工したり、料理の下ごしらえをしている店や板さん。 味はうまいかもしれないけれど、当たるリスクも大有りです。


ついでに、衛生グローブのお話。

手を衛生的に保つのは、このように困難です。 しかも、いくら綺麗に保とうとしても、実はしばらくすると皮膚の細かい皺の間からバイキンが出てきます。  外科医がブラシまで使って手を洗うのはそのせいですが、そこまで激しく手を洗うことを省く為に、食品業界では衛生グローブを使うことが多くあります。 と くに痛みやすい弁当、惣菜、ハムソーセージ等の工場では必須です。 
かなり前から、この手袋をケーキ店や惣菜店などが店頭でも使い出しました。 これまた結構な事です。 使い方が正しければ。。。
この衛生手袋使用の基本は「食品以外触らない」です。 食品以外で触ってよい物は「食品に触れることを念頭に洗浄消毒された道具、容器」。
ケーキ屋を例にして言えば、
ケーキを作る作業している際の材料、
ミキサー、へら、ボウル、ナイフの類、
だけです。

食品工場でも、新入り社員に教える大事な事項の一つに、
「衛生手袋をしたらあちこち触るな。 作業台表面と食品意外に触ったら手袋を交換しろ。」
と言うのがあります。 作業台の脚には床から跳ね上がった飛沫がバイキンと共に付いているかもしれません。 食品容器が入ってきたダンボールは普通に宅配 便で届けられたはずです。 そんな箱を触ったら。。。。

町の弁当屋さん、パン屋さんケーキ屋さんの場合。 一般店舗の冷蔵庫の扉は、他の人が素手で触る事も有ります。 厨房の扉も業者さんが「毎度アリー」と良 いながら、さっきまで車のハンドルを握っていた手で開けてきます。  それらの取っ手は皆、普通に汚染されています。  そんなところを衛生手袋で触れば 手袋は汚染され、「全く無意味」になります。

もっとすごいのは、衛生手袋をして商品を箱詰めしたあと、そのままお会計。 その手袋を捨てずに、また食品を直接触る作業に戻っていたリするお店が山ほど 有ります。
このひどい例が、実はたくさん見られるのが日本です。 
調理師、栄養士に微生物や食品衛生の基礎が、まるで出来ていない人々を少なからず見る事が出来ます(腕時計して調理をしている人はたいてい当てはまりま す)。
衛生手袋をしていれば、手は未来永劫無菌になっていると信じている人が本当に居ます。 

おそろしいですねぇ

 

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