話の種

日本人が西洋人とのプロジェクトで失敗する典型的ストーリー

外国で仕事したりしていると色々と聞こえてくる見えてくる、典型的駄目日本人技術者のお話。

トヨタや本田のような自動車会社が政治的な理由でアメリカに工場を作るケース。
日本の 高い(高かった)人件費を嫌って安い人件費を求めて、大田区から中国に工場が移転するケース。

政府の海外支援の一環で、援助事業を引き受けて技術者として出かけていくケース。

などなど

様々な理由で、多くの日本人が外国で、外国人と共同で仕事をする場面が今も昔もたくさんあります。

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言うまでもなく、失敗するケースも多々ありますし。 出かけていった国で大成功して現地の工場の品質を上げ雇用を創出し、地元の政府から勲章もらって帰ってくる人も居ます。 様々な成功談は、皆さん日本での報道でご存知でしょうから、そんな、麗しいストーリーは省きます。

また、よく日本で報道される失敗談も、現地人が、日本の進んだ品質管理についていけなかったと言うストーリーが圧倒的です。 
冗談じゃない。 実は一番典型的な失敗の原因は、一部日本人の「致命的交渉能力の欠如と異文化への無理解」です。


とある会社、ある事情で、外国で新しく工場を 立ち上げて、日本向け生産をしなくてはいけなくなりました。
20世紀も80年代、90年代になりますと、けっ こう日本製の工業製品は世界の最先端の民間向け工業製品となりまして、その生産手法は、カイゼンシステムとして、世界に有名になりました。 
そして、世界に冠たる技術立国になったわけで すが。 あんまり進みすぎて、人件費高くなってやっていけなくなってしまった会社が多々出てきてしまったのは、皆さんご存知の通り。 

さて、この会社、外資の食品会社でしたが、日本に工場を建てた段階から建築費ぶったたきの安普請工場でした。 工務課長営繕課長が大車輪で修理しても、も ともと安普請でどうにもならない所まで来ていました。 そもそもメインテナンスコストを外国にある世界本社が認めてくれないと言う悲惨さ。

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基本的に英米文化の人々は、「良い物を上手に維持して長いこと使いましょう」という概念が希薄。 「良い物か、安いものを資金投入してどかっと設置して、あと壊れたら治しながら使いましょう。」が一 般的です。 「壊れていない機械を治すのは馬鹿者」という意味の格言が英国(G)にはあるそうです から、そういう国民性なのでしょう。

さて、その日本の工場も、どうにもならないところに来ていたので、某西洋の国の親会社の人々は「日本は人件費も高いし、原料も高い。 この際、ZLの子会社に大投資して日本を含めた周辺各国への供給工場を建設し、日本の工場は閉めてしまおう」と考えま した。

当然、工場閉鎖なんてのは従業員にしたら青天の霹靂、日本子会社の経営陣も自分の工場がなくなるのは、いろいろ困る。

そこで「日本向けに日本で開発製造している商品は、大変製造が難しいので、この計画は大変難しいでしょう」と云う趣旨のレポートを世界本社に提出しました。 日本の重役達は「これで海外移転話は終わった」と安心しました。
ご存知の通り、日本の文化では「それは難しい」と言えば「できません」の同義語です。 しかし、英米文化を背景とする世界本社の人たちは、そうは考えなかった。
「難しいと言うのは、困難ではあるが実現可能 であるという事であろう」と受け取り。 

「そんなに難しいなら資金もかかるだろう、それは必要な投資だ」と莫大な資金投入がZL工場 になされました。 ZLの人々は万々歳。 

そして世界本社は「高度な技術が必要なら、日本の工場から高度な技術とやらを持っているスタッフを送り込みなさい」と日本子会社へ命じたのです。 「難しいなら、チャレンジし甲斐が有る!」と感じる西洋人たちに、難しいというのは火に油を注ぐようなものだったのです。

この期に及んでも日本会社の人々は、まだ、日 本の工場を生き残りを図ってじたばたしましたが、基本的に手遅れ。 
英米文化の人は「決めた」と言ったら、てこでも動きません。 全ては「決めた」という前に「考え直させなければならない」のです。

バブル崩壊後の一頃、日本では「歴史に学べ」 というので大東亜戦争/太平洋戦争の敗因を調べた本が良く売れました。 兵力小出しにして結局、無 念な戦病餓死者の山を築いたガダルカナルやインパールでの無能な作戦計画と指揮については、しばしば取り上げられました。  

逐次兵力小出しは、作戦行動としては「愚者の兵法」とは世界の常識。  ところが、日本会社の人々はZL生産の困難さ証明を、ガダルカナルの帝 国陸軍のように小出しにしていったのです。  ひとたび決意したら徹底的にやるアメリカ軍と同じで、小出しの言い訳レポートは、世界本社の最高経営会議に 全て歯牙にも掛からず却下されてしまいました。

私は外国の親会社からの無理難題をひっくり返 すプロジェクトに携わった事がありますが、「この件については、以下の理由から日本市場において全く未来が無いと断言できる」「理由。 当該商品の需要が無い。 競合品のほうが高品質低価格。  容器デザイン貧弱、などなど」と市場調査約1ヶ月でレ ポートをしあげて、当時の私のボスが世界本社に乗り込みました。

1週間後、プロジェクトの旗を揚げた地域本社の社長本人はクビになりました。 鉄砲で撃たれたら爆弾を落とし返すくらいのリアクションが無いと、英米文化の人には効き目がありません。  でも彼らの論理で理屈が通れば、頑固英米文化圏の人々の意思をひっくり返す事はできるのです。

「説明される側の 論理に配慮して説明する」と云うのが鍵です。

(ちなみに、そのときのレポートの厚みは?  厚いと思うでしょ? 主文1ページ、付属文書数ページ。 クソ忙しいトップ経営陣のだれも分厚いレポートを読むヒマがある訳がない。)
さて、しかたなく、技術スタッフをZLに送り出した日本の子会社。 送り出された人々も、技術は秀でていても、およそ交渉能力が英語が何とかな る程度の人々だったからさぁ大変。  提示された3年間の期限のうち残されたのは1年強と云う段階でも目立った進捗がありません。 

そして、口々に「現地人が馬鹿だから」「協力してくれない」と言いながら、毎晩内輪で飲み会。  日本で余剰になっている問題社員に最後のチャンスを与えたつもりで送り出したわけでも無いのに、若者 達はこの有様でプロジェクトは頓挫寸前でした。 

彼らは 日本会社の重役同様、日本のロジックで物を語り、理解を得られないと「現地人は馬鹿」と云う結論を出して、あとはお互いに慰めあっていたのでした。  

なんとも、驚きですが、これが結構、日本の会社員に普遍的な馬鹿物語で、英国(G)で生産をしている、某日本の電気会社も工場立ち上げがどうにも上手く行かないので、品質担当者が日本から出かけていったら、駐在部隊がこのていたらくで、全く機能していなかった。 とは、JANETのOMにうかがった事があります。
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文化的背景の違う複数の人々が簡単に意思の疎通が出来たら、戦争なんて起きやしないわけです。 たとえ流暢な英語をおたがいに話していても、頭の中での理解は、互いに違う絵を思い浮かべているのが通 常の世界。  

品質技術の世界ではISO9000シリーズとか、食品品質の場面ではHACCPな どが出てきましたが、これらは、「皆が考えている事は、一様ではないから、一語一句、全ての事象に説明をつけて、普遍な理解を得ましょう」と云う思想から 出てきたものです。

また、日本では、現場の作業員が「改善提案」をだして、現場を改善していく事がありますが、違う文化の国(ZL等)ではマニュアルに書いて無い 事を考え出す作業員は「危ない奴」であって、「工夫に富んだ人」ではないのです。  

日本では、工場で新しい事を始めようとするとき(新製品が始まるとか)、現場の人々の工夫や意見で、指揮部隊は方向性を出すだけで済んでしまう事が、よくあるパターンです。 しかし、地球上には、そうでない文化の国のほうが多いのです。 一から十まで説明し、書類にし、マニュアルにしてやらないと、駄目な事もあるのです。  

失敗した外国プロジェクトを抱えた日本の会社の共通項は、何処も駐在スタッフに、

『「念入りに且つ繰り返し説明する義務」の遂行と、その上に「判って貰おうという気持ち」が不可欠』

と云うことを理解できない人を送り込んでしまった会社という事です。  

「そこまで説明しないと判らないの? この馬 鹿達は?」と、考えてしまうような社員を、外国での新規立ち上げに出した会社は、どこも人事部にろくな人材が居ないのでしょうね。  あと、もひとつ失敗 会社の共通項は説明の下手な人が大変多いという事でしょうか。  

本当に、昨今の日本の技術者は、どの産業でも、相手のレベルに合わせて説明をするという事が下手な人が多すぎです。

私がZLに来た最初の理由は、こういう状況を何とかする為でした。 ひどいもんでしたよhi。 工場のネットワークサーバPCにも繋がっておらず、工場のひとつの部屋に「ひきこもり」状態で「誰それは馬鹿だ」と言っている日本人の集まり。。。。  


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現地スタッフの中から、それぞれの道の専門家を探し出し、噛んで含めて日本市場の必要条件を説明し、実現可能な方向性を見出して、予算をつけて動かしだすのに1年。  動き出したら、あとは現地で掘り起こした優秀なスタッフが細かい形を作ってくれましたが、修羅場でしたhi。
 
つらつら考えるに、外国での新規立ち上げは、少数精鋭に限ると思います。  
人数を送り込んでも駄目。 お馬鹿な船頭を量だけ送り込んでも、船を山の頂上に担ぎ上げるだけ。。。。  
見たことも無い手法を自分の方法に取り込める柔軟性のある人材を、ごく少数投入して、全権と予算を渡してしまう方法が成功しやすいと、私は思います。

そもそも、日本人技術者がこういう罠に陥りやすいのは、対外向け日本品質の神話を日本人もが盲信してしまっているからでしょう。  
国によって背景とする文化によって「品質」の意味はまるっきり異なります。 
外国での「品質」の意味は日本での「品質」の意味と中身が異なってアタリマエ。   この違いを認めずに、日本の価値観だけを振り回すのは愚か者。 

というわけで、相互理解と尊敬の無い関係で、さらに任地を愛する気持ちのない人に運営されたら、多国籍ジョイントベンチャーに成功する余地はあり得ません。 

あなたの組織は大丈夫? 


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