
苦情あれこれ
食品会社を渡り歩いていて出会った、不思議なクレームや不良品、事故の数々。
6月31日事件。
アメリカで作ったビン入りソース。 このアメリカの工場では全米はもとより、アジア地域にも製品を製造輸出していました。 ですから、お客さんの国々の法律に合わせて、賞味期限の表示や、ラベルの貼り付けをしていました。 日付の表示もアメリカ国内では、製造日をジュリアンコードと言って、一年のうちの第何日目かを、1から366であらわす方式を使っていますが、日本は、賞味期限を年月日で表わします。 これが別の国へ行くと、日月年の順になったりします。
この印字機械の切り替えをするのに、その工場ではすべて手作業で入力していました。 ただでさえ日本向けの製品の生産量なんて、少ないのです2ヶ月に一度数時間作れば生産終わり。 めったにやらない。 だれも日本向けの詳細なんて覚えていない。 でも、マニュアルが有ります。 普通はこのマニュアルを読んで仕事をすることで問題は起きなかったのです。
ある男。 この男はプラスチック瓶入りのソース充填ラインの機械のセットをするのが仕事でした。 ある年の12月31日に、この男、マニュアルを読んで、「日本向けは賞味期間18ヶ月だから」と、再来年の6月31日を、賞味期限印字装置に入力しました。
賢明な皆さんはお判りでしょうが、世界のどの地域のカレンダーを見ても6月は30日までしかないんです。 この男は、正確には7月1日か6月30日かどちらかを、入力すべきだったのです。 でもねぇ。 大晦日だもんネェ。 偉い人たちは皆クリスマス休暇だし、そんな真面目に仕事してられますか。
で、気が付かなかった。 品質検査の人も気が付かなかった。 でコンテナに載せて、海を渡って日本に届いちゃった。
日本でもね、受け入れ検査ってあるんですよ。
そこでもね気づかなくって、スーパーの店頭に並んでしまったんですね。 これがね、お店の人も気づかない。 その商品が店頭に並び始めて半月ほどしてから、ある地方のスーパーから、日付が変だ とお客さんに言われた と クレームが入りました。 営業マンがお店へ飛んでいって、お詫びをして、製品を全て引き上げてきました。 それから会社は蜂の巣を突っついたような大騒ぎ。 結局何十トンのケチャップを回収して捨てました。 もったいないから、回収したくなかったのですが、スーパーに回収しろ と言われればメーカーなんて弱いもんで。 一度回収したものをよそに売るわけも行かないでしょ。 ですから全量廃棄になりました。
でもね、100万本近く店頭に並んでいて、結局クレームが付いたのが、最初の一件だけでしたよ。 私も最初にこの製品何処が間違っている? と聞かれて判りませんでした。
かえずがえす、あの商品はもったいないことしたネェ と今でも思います。
缶詰から生きてるゴキブリが出てきた事件。
ある日、とある九州の営業所から、スープの缶詰からゴキブリが出てきた とのクレームの連絡がありました。 ゴキブリは世界各地にいまして、種類が多岐にわたっています。 非常に生命力が強い。 なんたって恐竜の時代から代々暮らしているんですから。
でもさすがに熱湯の中では生きられないですが。
皆さんご存知の通り、ジュースなどの飲料缶詰は別として、スープ、カレー、ツナ、焼き鳥、みかん等の食品缶詰は缶に中身を詰めて、蓋をして、それから、マイクロバスくらい大きな圧力釜で缶ごと茹でて殺菌するのです。 ですから長持ちするわけです。 つまり、缶の中の温度は大抵120度を超えるわけです。 そんな温度で煮えない生き物があるもんですか!
ともかく、ゴキブリは種類が沢山あるので、種類を見れば、工場で入ったのか、どうか判ります。 ニュージーランド製やイタリア製の缶詰に日本にしかいないヤマトゴキブリが入っているわけは無いですよね。
わかりますかここまで? 缶詰の蓋は工場で閉めて、次に開けるのは誰でもないお客さんなんです。
そこで、私は担当営業マンに、「ゴキブリを姿かたちを壊さず貰って来い」「すぐ冷凍して私のところへ送りなさい」 これは、姿が壊れると、何処のゴキブリだか判定できなくなりますし、腐ったりすると、缶詰の中に入っていたかどうかの酵素活性試験ができなくなるからです。
さて、この担当営業マンの返事が傑作。 「あのー凍らせると死にますけど、いいですか?」 私はこの男を冷凍してやりたくなりました。 缶詰の殺菌温度を耐えられる昆虫を発見したらノーベル賞が貰えますよ。 うるさいお客さんのところでガミガミ怒られると冷静な判断力が無くなるのですね。 気の毒に、この後、彼は上司に「何年缶詰売ってんだ馬鹿やろ」と叱られて、落ち込んでいました。
これは答えは簡単、お客さんが蓋を開けて目を放した隙にゴキチャンが缶に飛び込んでスープのプールでおぼれてた と言うお話でした。
船火事事件。
不良品以外でも、注文を受けたら、その商品を期日までにお客さんのお店の倉庫に納めないと、それはそれは大変なお叱りを受けます。 お客さん、この場合はスーパーマーケットですが、お客さんは商品を売る気で店の棚をその商品のために空けています。 それなのに、お客さんのところへ商品がお納めできないと、スーパーではそのスペースに別の商品を並べなければなりません。 その為に新しく値札を書いたり、並べ替えをしたりしなくてはなりません。 全国何百店チェーンだとそのための経費は莫大になります。
ですから、商品が切れました。 なんて言おうものなら、大変な騒ぎになります。
これが起きたんです。
また例のアメリカのソースですがね、アメリカからコンテナ船に乗せて東京港へ向けて船出をしたんです。 予定通りの日程で。 ここまでは良かった。 ところが、アリューシャン列島の沖で船火事を起こしましてね、総員退船、船長以下全員船から脱出してしまった。 船は、海水をがんがん入れて消火に努めたので、45度に傾いてしまい沈没寸前。
ここで、私のところに連絡が入りました。
こうなると、荷主つまり、私の居た会社みたいに、コンテナの荷物輸送を船会社に委託した会社は無責任なもんで。 皆で声を揃えて「沈んじまえー!」 沈んでしまえば即保険で新しい商品を輸入できるからです。 ところがですね、その船会社、根性で日本最大のタグボート2隻を雇って東京港まで引っ張ってきてしまいました。
この段階でですね、欠品になることは判っていたので、アメリカに再度注文して、それを航空貨物で運んできまして、お客さんにお納めしました。 1本100円の製品を売るのに航空運賃が1本うん百円。 大赤字でした。
で、船火事にあった製品ですが、保険会社が来てですね、「これが売れない商品だと言う証明をしてくれ」と言うんですよ。 見た目は正常ですからね。 そこで、味を調べましたらね。 一週間も煙でいぶされていたから、容器もいぶくさいし、容器がプラスチック製でガスバリア製が弱いから、中身までいぶくさい。 というわけで燻製ソース20トン弱、晴れて廃棄できました。 当然保険金がでました。
しかし、飛行機で運んだ飛行機代は出ませんでしたから結局大赤字でした。
以上馬鹿なお話でした。
初出「北海道ブラインドハムクラブ」録音雑誌2004
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