話の種

大当たりな話

日本人は何でも生(ナマ)で食べたがりますね。 今回は、それにまつわる話です。 

私の海外運用の大先輩でJA2RM氷室さんというOMが居られます。 2RM氷室さんは、技術者として世界を股にかけて来られた方ですが、その氷室さんか ら伺った大当たりな話をご紹介しましょう。

清潔の概念と食文化はワンセット

氷室さんは世界中で新しい工場を立ち上げてこられました。 フランスでも工場を建てました。 さて工場建屋も完成し、生産ラインも準備 が整うと、日本から応援技術者を呼び寄せて、試験運転や、作業の訓練を始めます。 大抵、日本からの応援技術者の人々は、「洋食? 大丈夫ですよ!」とは云うもの、1週間もすると、「あー和食が喰いたい」と言うことになります。 いまでこそ、和食は世界中で手に入るようになりましたが、30年ばかり前とも なると、その入手は非常に難しかったようです。 (ZLの辺境では今でも難しい。。。。)

大抵ラーメンは、日本からダンボールいっぱい持ってきますが、その他は、なかなか無いですね。 そこで、皆で町へ繰り出して、日本食になるものを探すわけ です。 
「おー魚屋が会った」「いつ取れたか聞いてみろ」「どうやら刺身になるだろう」てなことを言いながら買ってくるわけです。

そして、翌日、せっかく日本から来ていただいた優秀な応援部隊は腸炎部隊と化し、病院へ送り込まれるのです。  工場長の氷室さんは、ただでさえ忙しいのに、下痢ピー部隊の入院先に行き、通訳をする羽目になって、工場は動かない、日本からは「何を食わせた!」と叱責のFAXが届き、四面楚歌のひどい目に あったそうです。

氷室さんは、前もって皆に言ってあったそうです。 当たるから喰うなよ。 と。 

なぜ氷室さんが口を酸っぱく言っていたか? それは魚の取り扱いが、日本のような刺身文化のある国と、フランスのような無い国では根本的に違うからなのです。 どうせ、焼いて食うさと言う考えで居ますから、そこいらを歩いた汚れた靴で歩いた床に、魚が転がっているのも普通ですしね。 生で食べることを前提 にしていない衛生状態です。

それなのに、そんな魚を生で食べれば! ピーピーです。 当たり前です。 

食品業界の品質技術者でさえ、国によって衛生手法が微妙に違います。 それは基本的な理解が、それぞれの食文化に根ざしているからです。
それで、世界共通項を持とうということで、ISO9000とか、ISO22000とかHACCPやBRCが出て来た訳ですが。

その、フランスに追い越された!

さて、フランスの魚産業の衛生状態ですが、昨今は、だいぶ向上したようです。 刺身文化がフランスにも取り入れられたせいもあるでしょう。  欧州連合の漁業食品衛生基準は大変進化しました。 そして! 何年前でしたか、なんとまぁ、青森の水産工場を検査に来たEU欧州連合の衛生担当者は、検査した工場す べてを不合格にしてしまったのです。

いわば、形勢逆転ですね。 おまけに日本から全ての水産食品が、非衛生的であるということで、輸入禁止に指定されてしまったのです。 一時期、ヨーロッパでは、世界一清潔な水産加工工場として有名な、紀文の蒲鉾さえ、巻き添え食って輸入できない時期がありました。 いまは、輸入禁止処置は解除されたそうで すが、一時のヨーロッパでは蒲鉾の一切れは虎屋の羊羹より高価だったのでしょうねぇ。


ちゅ!は唇にしましょう

衛生状態が違うのは魚だけではありません。
生 卵。 人間様の女性には子供を生む穴、おしっこする穴、ウンチをする穴の3つがあります。 ところが鳥は総排泄口という穴が一つあるだけです。 お判りですか? 鶏はウンチやおしっこが出てくる穴から、ついでに卵も産むのです。 昔、生卵に口を付けて吸ってい た、あなた。 それは鶏の肛門とのディープキッスだったのです。

なにが、怖いかといって、別に鶏の糞の欠片は別に怖くありません。 怖いのはサルモネラ菌です。 これは有名な食中毒菌で、鶏の腸の中に多く住んでいます。 卵の殻の表面にはコイツラがコッテリ付いていることが大変多いですし、生む前に鶏の体内で卵の中身が汚染される事もあります。
そこで、日本の卵は鶏に薬を飲ませたり、鶏舎を消毒したり、ネズミが入ってこないようにしたり、ともあれサルモネラの汚染度を小さくして流通させているよ うです。  
これは日本人が生卵を食べる習慣があるからです。 卵を産む鶏がサルモネラに感染していなくても、殻にひびが入ったりすると、卵の表面のサルモネラ菌が中に入って白身や黄身を栄養源にして大増殖! こんな卵を食べたら、おなかが超特急、下手すりゃ超特急あの世行きです。 
日本の家畜衛生の現場の人によると、ひとたびサルモネラ汚染した鶏舎は、まず汚染からさよならできないようです。

ゆで卵にしたら大丈夫だろうって?思います?  ひび割れ卵に飛び込むのはサルモネラばかりではありません。 ブドウ球菌が入ったら? 煮て菌は死んでも エンテロトキシン毒素は残ります。 かくして、その毒素で食中毒です。

外国で売っている卵は、このリスクが日本よりはるかに高いのです。 そんな卵を買ってきて生で鋤焼き用に使ったりした人たちは。。。。 おわかりですね。
氷室さんは、こういう卵で当たった人たちの面倒も散々見させられたそうです。

このサルモネラ菌、ネズミの糞にもたいそう入っています。 お宅でネズミをお飼いの皆様、駆除しましょうね。 また、日本で売っている卵でも、ひび割れて いるのは使ってはいけませんよ。 もったいないと思わず迷わず捨てましょう。

そもそも、冷蔵庫の卵ラックは、食中毒の大元です。 あんな冷蔵庫の上の方にムキダシで並べたら、卵の表面についている、厄介な細菌が冷蔵庫のファンに吹かれて冷蔵庫内中に撒き散らされてしまいます。 非衛生この上ないです。 我が家では、卵は冷蔵庫の下のほうにパックに入れたまましまってあります。

ともかく、日本の常識が世界で通じると思ったら大間違い。 へたすりゃ命を落とします。 というJA2RM氷室さんの経験されたお話でした。

ま、ついでに言わしていただくと、生で食べて安心なのは実はかなり限定されます。
人間にも移る寄生虫を多く持っている魚の種類は意外と多いですし、四足の動物などは寄生虫の宝庫のようなものでして、馬刺し、牛刺し、などは恐ろしいです ね。

とくにレバーを刺身で食べているあなた。 やめたほうが身のためです。 あなたの肝臓を食い破る素敵な寄生虫に取り付かれますよ。  2004年の11月 には豚レバー刺し原因のE型劇症感染での死亡例が報道されましたね。

とりつかれて幸せになれるのは、美人の幽霊だけです。


「油で揚げてあれば当たらない」は嘘

さて、話を元に戻しまして、

「じゃー外国へ行ったら、油で揚げてあるものなら大丈夫だろうから、フライばかり喰おう」 と考える方も居るかもしれません。 これはある意味正解です が。 100%安心というわけでもないのですよ。 酸化油脂中毒と言うのがあります。

古い油のてんぷらとか食べるとゲップがやたらと出るでしょう。 胸焼けもするし。 これは油が酸素と結びついて起きる酸化油脂中毒の初期段階です。 これが酷くなると、意識を失うほど当たります。  油はケチケチせず、新しいのを使いましょう。 それにそちらの方が美味しいですしね。

こういう酸化油脂による食中毒は化学性食中毒と呼ばれるものの一種です。  食べ物に農薬が大量に混ざっていたりすると起きる食中毒も化学性食中毒の一種です。 一番、一般的な食あたりは、細菌性、ウイルス性、カビ性の食中毒。 その次が、化学性食中毒。 このほかにも、大当たりの素はあります。 毒素型食中毒。 そう、毒キノコやフグで有名ですね。 言うまでも無く毒を食らって大当たりです。 もうこれは、素人は手を出すなの一言です。

スーパーの棚の上の有毒食品
毒 素型の意外なところでジャガイモ中毒というのがあります。  ジャガイモは光を浴びると皮の下にポテト-グ ルコ-アルカロイドと言う毒素が出てきます。 小学校の学校菜園でジャガイモを育てて、収穫し、洗って、ご丁寧に窓際に乾しておくと。 ジャガイモは光の力で一気に毒素を作り、食べた子供達は、みな大当たり。 という話は、日本の公立小学校では、ほぼ毎年起きておりまして2006年7月には過去最高の77 人が大当たり。 ジャガイモは芽に毒が溜まると言いますが、正確には芽にも溜まるけど、皮の下にも溜まるのです。
imo

この毒素はアルカロイド毒素ですから、味にえぐみが出ます。 つまり保管に失敗している、光を浴びたジャガイモは美味しくないですね。 その昔は、このアルカロイドを使ってボイラーの内側の錆落としをしていたというくらいのアルカリです。
そこで、食品安全先進国NZでは、ジャガイモは光の通らない内側の黒い遮光袋に詰められて売られています。 

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食品添加物による50年後の発がん性を気にする人たちが、食えばいきなり当たる毒には無頓着なのは不思議ですねぇ。 この毒素はスー パーの店頭の蛍光灯の明かりでも充分溜まるそうですので、美味しいお芋を食べたい人は、かみぶくろ入りのジャガイモを買いましょう。 
でも、「紙袋入りは売れないからなぁ」という生協のバイヤーさんも居たなぁ。

ちなみに、某最大手スーパーの方々も消費者が芋毒でハライタ起こしてもかまわないようで、芋業界がいくら言っても馬の耳に念仏らしい。 

さて、以上3つの食中毒、微生物型、化学型、毒素型でないのに、当たることがあります。 



水あたりとか言いますが、水が変わると、おなかを壊したりしますね。 これは水の中に含まれるミネラル分の多寡によって起きる現象です。 
中毒でなくても、当たる時は当たる訳です。 旅行に行ったら水に気をつけろよ と言われますが、これには2つの面が有ります。 一つは水道設備が不衛生な 場合。 これは中毒の一種ですが、中毒で無いもあります。 
それがミネラルが原因の水あたりです。 殆どの日本の水は軟水です。 水に溶けているミネラル分の少ない水をやわらかい水と言うことで、軟水と言います。  これの反対がミネラルがたっぷりの硬い水、硬水です。 硬水慣れしていない日本人がミネラルたっぷりの硬水を飲むと、おなかを壊すことがあるようです。

高級品を食べつけない人は高級品に当たる。

さらに食中毒でも水あたりでもないのに、おなか壊すことがあります。 私がドイツを旅行していたとき、長距離列車の中で知り合ったドイツの商人に聞いた話です。 彼は、世界中を旅していますがアメリカのロスアンゼルスの空港で寿司バーを見つけたんですね。  彼は思いました。  「俺は寿司と云うものを 食った事が無い。 これは寿司を食べる良いチャンスではないか」 とね。  

そして。。。。  大当たり。  この場合も寿司は衛生基準を通ったものだったのですよ、ところが、刺身についている細菌、病気のもとにならない細菌ですけども、ドイツ人の食生活では馴染みの無い細菌達だったのです。 ただでさえお刺身一切れには、10万個くらいの細菌がこびりついていますからネェ。

日本人は慣れているけど、ドイツ人には駄目だったと言うお話。 また、魚を生で食べること自体が、そのドイツ人の食生活では馴染みの無いものでした。

かくして彼の胃腸は慣れないものを押し込まれてびっくり。 でピーピーになったのです。
ドッグフードを急に変えると犬がお腹を壊すと言うお話を「話の種」のドッグフードの項にかきましたが、同じ理由だったのですね。  彼の消化管内の消化能力が寿司に対応していなかったというわけです。 これと同じ理由でピーピーになったのが、日本の総理大臣だった村山氏。 イタリアのサミットで食べつけない高級料理を食べて(たぶんオリーブオイルたっぷり)大当たりー!

と云うわけで今回のお腹の痛い話はおしまいです。

旅行に行ったら、食べ物には気をつけましょうね。

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