話の種

デンマークと豚肉の歴史。

どうも、工場で食品を作るって言うと、皆さんの頭の中には、怪しげな薬を突っ込んで贋物の食べ物を作っている。 というような事を思い浮かべている方が結構居るのですが、全くその通りです。 いや、うそです。 まぁそうかもしれない。

私が勤めたのは、食肉工場、ハムソーセージ工場、缶詰工場、冷凍食品工場などですが、今回は、お肉がらみの話をいたします。
私が居た屠殺工場は、デンマーク(OZ)にありました、まぁこれがどでかい、一日2500頭の豚を屠殺して肉にするわけです。 当時北ヨーロッパ最大の屠殺工場でした。 これはワードで記事を書いていたのですが、「屠殺」っていう単語は出てこないんですね、日本人は屠殺という言葉は嫌いなんですかね。 肉 は食うのにねぇ。

まぁ、だいたい2500頭の豚と言いますと、大型トラックで、何十台分になろうかと言うくらいの量です。 豚一頭潰すと、ロース、ひれ、もも、ばら、うで、かたが各一組ずつ取れます。 で、私が居た工場ではロースとひれ、バラを箱に詰めて、−20℃で冷凍して冷凍コンテナに積めて、コンテナ船で日本へ送 るわけです。  約一ヶ月ちょいの船旅で日本に到着です。

この工場があった町はオーデンセ(Odense)って言いまして、童話作家として有名なアンデルセンの生まれた町です。

アンデルセンの記念館とかあったりして古い町並みの残された風情のある町なんですが。 そこに毎日豚を満載したトラックが、轟々と走ってましてね、毛を焼くにおいとかが風向きによっては街中に漂いまして、実に風情が無い。 「何、このにおーい?」と言う、日本人観光客の声をよく聞きましたよ。 デンマーク人はあんまり気にしてないんですが。

ちなみに、町の人にアンデルセンの家はどこだ? と聞いても、まぁ通じません。 デンマークでアンデルセンと言ったら、日本で言う「佐藤鈴木は馬のくそ」(失礼)よりも多いのです。

ですんで、地元の人は童話のアンデルセンのことをHCと呼んでいます。 ハンスクリスチャンの略ですね。 彼のフルネームはハンスクリスチャンアンデルセンと言います。

ですから、皆さんOZの局と交信していて、相手がアンデルセンさんとわかっても、童話作家の一族か? なんて聞いてはいけません。 これは鈴木さんに鈴木自動車の社長の一族か? と聞くくらい間抜けな話ですから。  閑話休題

豚は捨てるところが無いとデンマーク人は言いますが、まさに工場からごみとして出るのは、胃や腸の中身と足の先のつめくらいです。 皮や骨からは、コラーゲンやエキスを取り出します為の工場へ出荷しますし、血液は濃縮して血のソーセージの原料や天然着色料、 お薬の原料になったりします。 腸は、ソーセージの皮になります。 

腸と言ったって、左の写真のようにモツなべに出てくるような、あんなぶあついのではなく、ここから筋肉や粘膜を取り外した薄くて強い半透明の筒状のホースのような状態のものです。

日本では細いソーセージのことをウインナーソーセージ、中くらいのをフランクフルトソーセージ、超ぶっといのをボロニアソーセージと言います。 細かろうが太かろうが、ひき肉や練り肉を詰めて固めた肉製品はソーセージです。 このソーセージの太さは、つめる腸の太さで変わるわけです。

羊の腸が一番細くて、これでウインナーソーセージができます。 豚の腸がちょっと太めでフランクフルトソーセージになります。 牛の腸はとってもでかいのでボロニアソーセージにつかいます。  もっとも最近はボロニアソーセージのような太いソーセージは、プラスチックや紙でできた人工腸を使います。 なぜ かと言うと、天然物は太さがまちまちで、必要な加熱時間がまちまちになり、大量生産に向かないからです。 加熱不足の製品が出たら食中毒を起こして会社が潰れるかも知れませんからね。 加熱オーバーするとこれが旨くないんです。

内臓の処理さて、ついでですが、皆さん、ハムとソーセージの違いを知っていますか?  これが意外と皆さん知らなくて、NHKでさえソーセージをさしてハムとか言っているのだから、あきれ返ると言うかなんというか、、、、 まぁ、365日コンビニで3食済ませているんだろうね。 こういう間違えする人は。。。
そういう粗末な食事をしていて、グルメ番組なぞ作って欲しくないねぇ。。

くどいようですが、太さに関係なく、味をつけた、ひき肉や練り肉(練り肉と言うのはひき肉に氷を足して、とろとろになるまで切り刻んだ肉のこと)を詰めて、作ったものです。 たいていは煙でいぶして蒸気で蒸し揚げるのですが、お湯で茹でて作ったり、生のまま乾燥させたりするのもあります。 サラミソー セージなんかは生で乾燥させまくったソーセージのいい例です。 

一方ハム、無線のハムじゃないですよ、食べるハムは、肉の塊で作るところがソーセージとは違いますね。 ここまで、わかりましたか? その塊に味をつけて、何日か、何週間か、何ヶ月か寝かせます。、煙でいぶして、蒸気で蒸し揚げたり、お湯で煮たり、または生のまま乾かせたりと言うのは、ソーセージと一緒 です。  ハムも紙で作ったケーシングと言う筒に詰めて作ることが多いです、これは、加熱時間を揃えるためと、いま、ほとんどのハムがスライスのパックで売られるので、サイズがまちまちだと、お客さんに買ってもらえないからです。 まぁ曲がったきゅうりが売れないのと同じでして。

本当は詳しく言うと、もっときりが無いのですが、専門講習会じゃないのでこの程度でおしまいにします。  

ともかく、豚は捨てるところが無いのです。 これが言いたかった。 そうそう皮や骨からとられるコラーゲンはご婦人方の化粧品の原料として有名です. 天然コラーゲン配合なんてよく言いますが、何のことは無い、豚の皮をありがたがって塗っている訳でして。 うちのXYLもそうなんですが。  まぁ豚がよく お肌に合うらしくて、つるつるしていますよ。

また、脱線してしまった。  なぜ、日本がデンマークから豚を買うのか? 日本の農家がかわいそうじゃないか? と思うでしょ? トンでもございません。 
あ、これは洒落じゃないですよ。 日本の豚肉は高すぎて、ハムに使えないんですよ。 もうひとつ、日本の豚は、とんかつ用に育てられているので、やたら と大きいのですね、つまりですね、ハムにしてもスライスパックに入らないくらい大きくなっちゃう。 その点デンマークの豚は日本より小さい段階で殺しちゃうから肉が小さくて、加工しやすいんですね。 おまけに安い。 養豚農家も、屠殺工場も日本では考えられないくらい効率的に経営していますから、豚肉が安 いのですよ、日本までの船賃足してもまだ安い。 というわけで、加工用豚肉はほとんどデンマークなどの外国から輸入しています。 

じゃ、デンマークはなんで豚肉の輸出が盛んなの? 

というのはもっともな疑問ですね。

これには長い歴史の物語がありまして。

19世紀の終わり頃、ドイツにプロシアというやたらとけんかに強い国が出てきまして、ドイツを統一しました。 それまではドイツも日本と同じでお大名が群雄割拠していたんです。 この国の首相がかの有名な鉄血宰相ビスマルクです。 地球儀に触っていただければ判りますがDLドイツの北隣がOZデンマークで す。 ドイツを統一したプロシアは、国境の北側に広がるデンマークの豊穣な穀倉地帯に目をつけたわけです。 で、オーストリアと結託して、VKオーストラリアじゃないですよ、OEオーストリア。  そのオーストリアと結託して、ちょちょいと軍隊をだして、そのデンマークのもっとも豊穣な農業地帯をぶん取っ てしまったわけです。  蛇足ですが、この頃の勢いのいいドイツも見た明治時代の大日本帝国陸軍軍人達は、わが国もドイツ風で行こうと、惚れ込んで帝国陸軍はドイツ風を取り入れました。 これが後々ろくでもない後を引くんですが、これは置いといて。 国の食料倉を取られてしまったデンマークは食うや食わず の悲惨な状態。

デンマークに戦争が無かった頃、ドンパチやっているフランスから難民が入ってきてただでさえ人口は増えているから、たちが悪い。 そこへ出てきたのが、ダルガスという軍人です。 このダルガスが親子で「木を植えよう」という運動を起こしたのです。 当時のデンマークは湿地と、「元は林だったけど燃料に使っ て今坊主」の荒地があるばかり。 木が無いから、暴風は吹くし、昼夜の気温変動が大きくて、農業どころじゃない。  

で、ともかく木を植えようという運動をはじめました。 つぎに湿地を埋めて畑にしよう。 畑ができたら農業を科学的にやろう、そのためには学校が必要だ、学校は子供のためだけではなくて青年にも必要だ、まなぶことに貧富の差があっていいわけが無い、皆が賢くならないと国が潰れる。 というわけで、学校がど んどんできて、人材がどんどん出て、国力が回復したのですね。 

このあたりの話は内村鑑三の書いたデンマルク国の話  という本に載っています。 薄い本ですので、飽きずに読めます。

さて、人材排出した農業学校が国を挙げて研究したのが、皆で肉を食おう プロジェクトです。 畑もできてジャガイモも麦も余るほど取れるようになり、次は肉を食いたいというのが自然な流れです。    肉をいっぱい取るにはどうすればよいか、デンマークの農業大学が出した結論が、胴体を長くすればいいや。  というものでした。 豚はもともと、背骨の数が突然変異で増えたり減ったりすることがある動物です。 そこで、背骨の数の多い豚をあつめてきて掛けあわせ、どんどん背骨の長い豚を作っていきました。 背骨がながけりゃ、ロース肉もバラ肉も一杯取れるでしょ。 胴長短足豚です。  ただ、あんまり長くしす ぎて、体が弓なりになって、お腹が地面に着いちゃうくらいになったので、これは伸ばしすぎだ、ということで、今の長さになったそうです。 

そのくらいの昔から肉の研究をしているから、色々なノウハウの蓄積があって、デンマークは豚肉で有名な国になりました。 勤勉と教育で国を立て直したわけです。

すべての国民に教育と、仕事を。 年取って働けなくなった人には、不安の無い保障をと言う精神は、現代デンマークを社会保障の徹底した国にしました。 いい国だと思います? まぁいい国です。 仕事がなくなっても組合と国からの保障で5年以上収入が100%保障されますしね。 そのかわり、所得税がですね、50%から70%以上です。 稼いでも稼いでも税金で持っていかれる、おまけに、消費税が25%です。 そのかわり、学校も病院も、老人ホームもみんな無料。 国民が文句言わないか? 文句ぶうぶうですが、老後の楽しみがあるから、この仕組みが破綻せずやっています。 老後の穏やかな生活を得る権利のために、せっせと納税義務を果たしているのですね。 権利と義務の実にわかりやすい例ですが、日本人にできますかね。

いま、日本は健康保険がどうのこうの言ってますが、ああいう社会保障制度は、もう税金でやらなきゃしょうがないと私は思います。 日本じゃ75歳になっても健康保険払えって言うけど、収入も無いのにどうやって払うんだろうね。 天下り先の確保ばかり考えている日本の役人に日本国民は骨までしゃぶられて、 あぁ日本国民は捨てるところがねえや なんていわれてるかも。。。。

ちなみに、ZLの所得税の最高税率は、ほぼ40%。 払わさせていただいておりますよ(T_T)。 

「北海道ブラインドハムクラブ」の録音月刊誌用に書いた原稿を推敲しました。
とてもよくわかる肉や肉製品の科学は岡山大学のこちらを参照ください。 と、思ったらサイトが廃止されたようなので食肉通信社から通販で買ってください。 とてもわかりやすくいい内容です。

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