食品工業の失敗学


製造規格と製品規格 (二つの規格の狭間)で


欧州からハム、ベーコン用の原料豚肉を輸入していたハムソーセージメーカーでの話。 

日本市場で売るハムベーコンは殆どスライスパックです。 1パック当たりの枚数と重量をそろえることは、見た目を均一にする事が品質の意味でもある日本で は大事な事です。 前回買ったハムは8枚入っていたのに今回は7枚しか入っていないとなると、例えグラム表記の内容量が同じでもクレームが起きるのが日本 です。

そこで、これを防止する為には原料から形をそろえなければなりません。 その為には原料には厳しい規格がありました。 

使用豚の品種、餌、整形肉の長さ、幅、脂の厚み、取り除くスジ、箱への詰め方、冷凍温度、残存細菌水準などなど。
この中で、ユーザーであるハムメーカーの製造現場がもっとも気にするのはサイズです。 大きすぎれば加工機械にかからず、整形しなおしでロスと人件費が馬 鹿にならないからです。
私も、現場からの苦情を山と携えて飛行機に乗ったのです。 (当時はアンカレジ経由でねぇ)

その工場では、ロース肉は、まな板に印をつけて長すぎるものを切り落とし。 ばら肉はプラスチック製の型をあてて、それより外側に出た部分を切り落とすと 言う方法で整形していました。 

ばら肉整形


骨を抜いたあとのミドル部分(腹の部分)はヨレヨレで柔らかですから、まな板の上に載せる方法次第で伸びたり縮んだりします。
それを無視して、型を乗せて切ります。
どうしたって型どおりにはなりません。 大抵の場合型より大きい。 そして製品規格より大きいバラ肉が出来てしまうのです。 

百聞は一見にしかず。 現場を数日見ていれば原因は判りました。 つまり、型が大きすぎるのです。
型に正確に沿って、ナイフを走らせるのは簡単ではありませんし、肉も滑ります。


上図は真横から肉を整形しているところを見たところですが。 図の通り、いつも型より大きな肉が切り出されていたわけです。
結果として以下のようなサイズの分散が起きていました。 



なぜ、グラフのような規格サイズを外れたピークを持つ製品群が生産されたのかと言えば? 
答えは意外と単純でした。
製品規格と型の寸法が全く同サイズだったからです。 言い換えれば製造規格が型です。 
製品規格を達成する為の条件が製造規格ですから、おのずからその二つは異なったもので無ければなりません。 
製造規格は英語でProduction specificationとか、Process specificationとか言いますが、製品規格はCustomer SpecificationとかFinal Products Specificationとか言います。 西洋文化の工場では厳然と分かれていますが、日本の工場では区別しないところもかなり有ります。 これは品質 文化論の違いで何とも仕方ない事も有ります。

よくよく調べてみると、工場の製品規格書には、「○○cm x ○△cmの型を使って切る」と書いてあり、日本側の受け入れ工場の規格書には「○○cm  x ○△cm」としか書いてありませんでした。 

こういう、スペックの詳細の翻訳に手を抜いただけで、この様な苦情も起きるのですね。  (この場合は3カ国語の基準書と手順書をひっくり返して調べまし たが、QAと云う仕事は外国語が嫌いな人には向かないのは確かですよ。)

この規格を決めたのが、科学の「か」の字も知らない商社の人だったので、仕方が無い面も有ります。 
しかし、この文化の差による罠は、メーカーの人間でも、外国の仕事に慣れていないとしばしば引っかかります。

型の寸法を変えて規格を書き直し、原価計算をやり直させて日本に帰ってきました。 


ホームに戻る

話の種の見出しへ戻る

(c) ZL2PGJ 2004-2006 使用条件